ナタリが、寝ぼけ眼の僕に友達を紹介してくれた。

「この子ね、友達のメリーザ」

「んっ、い、まず。この足どけろっ!」

朝起きたら、知らない女に頭が変形するほど強く、両足で踏みつけられていた。最悪な目覚め。

「なに、コイツ……。こんな、冴えないバカが好きなの?」

「うん。大好きなんだよ」

黒い靴下を履いた細い足が、強引に口に侵入してくる。

「アッハッハハ、何その情けない顔~。ダサ面白っ!」

「や、め、がっ」

飛び起き、この悪魔から離れた。すでに怒りマックス。

そんな僕をなだめながら、ナタリは一言。

「良く分かったね~。この子が悪魔だって」

「……………ん?」


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真っ赤に燃える天の国。

「被害状況は?」

「西地区は、火の海です。ただ、影の者は殲滅したのでご安心を」

「そう……。分かった。それにしても、いきなり下界に行っちゃったかと思ったら、今度はコレ? う~ん、随分好き勝手やってくれたわね。そんなにお姉ちゃんと遊びたいの? 大事な大事な……界聖書まで奪って、この国のど真ん中に地獄まで開けちゃってさぁ」

神の前に立つ大天使達は、その氷のように冷たい眼光に身震いした。そして、自分達の失態、『あの聖書』をあんな小さな死神に奪われた自分達の罰は、死以外にあり得ないと強く感じた。

「………ですが、アンナ様。あの本を使うには、純血の悪魔の力が必要です。光の者に協力する悪魔がいるとは思えません」

喋り終わると同時、神の人差し指でその胴体を鎧ごと真っ二つに引き裂かれた守護天使。瞬きすら許さない緊張感。

「勉強不足ね。どこの世界にも異端児はいるものよ。ふぅ~~~~~~。まぁ、でも。興奮は、美容に良くないしね。とりあえず、今は寝よっかな」

神が大部屋を出るまで十秒。その十秒で、大天使とその他の平天使は、砂粒ほどにその体をみじん切りにされた。恐怖を感じる間さえ与えない神の怒りだった。


◆◆◆◆◆◆【白神】◆◆◆◆◆◆


何もない地球。

神様だけ存在している世界。
裸足の神様が、石を蹴る。飛んで、割れた石から人間の女が生まれた。

「私は、何も与えない。奪いもしない。あなたの好きに生きなさい」

無言の女は一人、歩き出す。


何もない地球。

神様と女が一人、存在している世界。
裸足の神様が、石を蹴る。飛んで、割れた石から今度は人間の男が生まれた。

「あなたの仲間が、この世界のどこかにいます。探しなさい」

無言の男は一人、走り出す。


何もない地球。
神様と女と男が、存在している世界。

神様は土を掘り、善と悪の種をそれぞれ埋めた。

善の種は、地球を潤し。
悪の種は、地球を破壊した。



でもーーーーーーーー。



「……………何か違う」


天の国から、しばらく様子を見ていた神様。地球を両手で握り潰す。一瞬、人間達の悲鳴が聞こえた。女と男、その子供たちの悲鳴。

最初から地球を作り直す。神様自身、何度目の地球か分からなくなっていた。


何もない地球。
神様だけ存在している世界。