つまらない仕事(魂回収)をようやく終え、三日ぶりに自分の部屋に戻ってきた。精神的にヘトヘトで、食欲すらない。だんだんと私が私で無くなっていく……。二億回目のため息の後、何年も過ごした下界の生活を思い浮かべた。
アイツは、死神である私を弱くする。迷わせ、判断を鈍らせる。だから私は、彼が人間の中で一番嫌い。
「………今、何してるの? 私の知らない女とイチャイチャ中…かな……。 絶対に……。絶対にっ! ハクシは私の手で一番キツイ地獄に落とすから。だからさ、今のうちに楽しむだけ楽しめば……い…ぃ…。うぅ……」
涙を拭き、寝る準備を進めていると姉さんに呼ばれた。仕方なく、再び外着に着替えて第六聖堂へ。
扉の前に立つ屈強な警備兵に軽く会釈し、中に入る。
「こんな時間に何ですか?」
「ごめんね~。この前さぁ、話したでしょ。 ナタリに新しい適合者を紹介するって。男よ、男。一人だと寂しいでしょ? エッチもしたいお年頃でしょ?」
私達の前に眼鏡をかけた背の高いアイドルのような天使が現れた。翼が六枚あるから、大天使長クラス。あの若さで、この階級。誰が見てもエリート中のエリートだと分かる。
「アナタには、このクラスじゃないと釣り合いとれないよね。彼さぁ、アナタのファンなんだって。とりあえず、くっつけばいいと思うよ」
「お姉ちゃん、悪いけど……。まだ、私には必要ない。ごめんなさい」
若い天使は、いきなり私の手を握ると手の甲にキスをした。
「これから宜しくお願いしますね。私とアナタの二人なら、誰もが羨む夫婦になれます。幸せになりましょう」
「………………」
私は、男の手首を握り返すと、そのまま思い切り捻り潰した。
アイドル天使は蹲り、床に鮮血を撒き散らしながら何やら喚いている。
「ごめんなさい。ビックリしちゃって。………ってかさ、気安く触らないで。イライラする。次は、消すから。お姉ちゃん、そろそろ部屋に戻るよ」
「うん。アナタってさぁ、本当に難しい子ね~」
……………………。
……………。
………。
私は、ベッドにダイブすると人差し指で空中に円を描き、下界の様子を映し出した。………今まで、恐くて恐くてどうしても見ることが出来なかった。
「!!?」
彼は、知らない女と手を繋ぎ、楽しそうに話していた。頭を鈍器で殴られたようなダメージ。吐きそう……。
二人で仲良く、夜景を見ていた。目眩と頭痛までしてきて。震える指先で見るのを止めようとした。
その時ーーーー。
花火が弾けた。懐かしい色。その鮮やかさと対照的に彼の表情は酷く暗い。
「…………………」
彼の悲しみ。裸の感情が、画面から流れ込んでくる。それは、傷ついた私を優しく包み込む。
私の記憶は、日々薄れていく。
何ヵ月も経過した今は、たまぁに見る夢レベルにまで曖昧になっているはず。
とっくの昔に、魔法は解けた。
それでも今、無数の記憶の中から私との思い出を必死に探している。
『私』という幻を追いかけているーーー。
「ごめん…ね………」
私は、なんてバカで愚かなんだろう。
また彼から大切な物を奪ってしまった。
◆◆◆◆◆【白い足跡】◆◆◆◆◆
たいした理由なんてない。
僕は、雪道に残る大人の足跡の上を踏みながら歩いていた。
「…………………」
どこまで続いてるんだろう?
目的地にたどり着く前に『飽き』が、僕の体を支配する。
振り返っても、そこには来た道がなかった。何もない。真っ白な画用紙のよう。
一時間、いや、二時間以上は歩いたと思う。僕は、やっと目的の場所にたどり着いた。
『疲れた?』
優しい声色のお爺さん。あの足跡の人だろう。
「大丈夫です。………ここは?」
『天国だよ』
「天国? ここが、天国………。なんだか眠くて……。少しだけ、寝てもいいですか?」
『いいよ。時間なら、無限にあるから。起きたら、君も僕たちと同じ白の住人だよ』
ぼやけた頭で考えていた。もしあの時、白い足跡じゃなく、隣の『黒い足跡』を選んでいたら………。
今は、どこにいたのかなって。
あの選択に、たいした理由なんてなかった。
だから、恐かった。
アイツは、死神である私を弱くする。迷わせ、判断を鈍らせる。だから私は、彼が人間の中で一番嫌い。
「………今、何してるの? 私の知らない女とイチャイチャ中…かな……。 絶対に……。絶対にっ! ハクシは私の手で一番キツイ地獄に落とすから。だからさ、今のうちに楽しむだけ楽しめば……い…ぃ…。うぅ……」
涙を拭き、寝る準備を進めていると姉さんに呼ばれた。仕方なく、再び外着に着替えて第六聖堂へ。
扉の前に立つ屈強な警備兵に軽く会釈し、中に入る。
「こんな時間に何ですか?」
「ごめんね~。この前さぁ、話したでしょ。 ナタリに新しい適合者を紹介するって。男よ、男。一人だと寂しいでしょ? エッチもしたいお年頃でしょ?」
私達の前に眼鏡をかけた背の高いアイドルのような天使が現れた。翼が六枚あるから、大天使長クラス。あの若さで、この階級。誰が見てもエリート中のエリートだと分かる。
「アナタには、このクラスじゃないと釣り合いとれないよね。彼さぁ、アナタのファンなんだって。とりあえず、くっつけばいいと思うよ」
「お姉ちゃん、悪いけど……。まだ、私には必要ない。ごめんなさい」
若い天使は、いきなり私の手を握ると手の甲にキスをした。
「これから宜しくお願いしますね。私とアナタの二人なら、誰もが羨む夫婦になれます。幸せになりましょう」
「………………」
私は、男の手首を握り返すと、そのまま思い切り捻り潰した。
アイドル天使は蹲り、床に鮮血を撒き散らしながら何やら喚いている。
「ごめんなさい。ビックリしちゃって。………ってかさ、気安く触らないで。イライラする。次は、消すから。お姉ちゃん、そろそろ部屋に戻るよ」
「うん。アナタってさぁ、本当に難しい子ね~」
……………………。
……………。
………。
私は、ベッドにダイブすると人差し指で空中に円を描き、下界の様子を映し出した。………今まで、恐くて恐くてどうしても見ることが出来なかった。
「!!?」
彼は、知らない女と手を繋ぎ、楽しそうに話していた。頭を鈍器で殴られたようなダメージ。吐きそう……。
二人で仲良く、夜景を見ていた。目眩と頭痛までしてきて。震える指先で見るのを止めようとした。
その時ーーーー。
花火が弾けた。懐かしい色。その鮮やかさと対照的に彼の表情は酷く暗い。
「…………………」
彼の悲しみ。裸の感情が、画面から流れ込んでくる。それは、傷ついた私を優しく包み込む。
私の記憶は、日々薄れていく。
何ヵ月も経過した今は、たまぁに見る夢レベルにまで曖昧になっているはず。
とっくの昔に、魔法は解けた。
それでも今、無数の記憶の中から私との思い出を必死に探している。
『私』という幻を追いかけているーーー。
「ごめん…ね………」
私は、なんてバカで愚かなんだろう。
また彼から大切な物を奪ってしまった。
◆◆◆◆◆【白い足跡】◆◆◆◆◆
たいした理由なんてない。
僕は、雪道に残る大人の足跡の上を踏みながら歩いていた。
「…………………」
どこまで続いてるんだろう?
目的地にたどり着く前に『飽き』が、僕の体を支配する。
振り返っても、そこには来た道がなかった。何もない。真っ白な画用紙のよう。
一時間、いや、二時間以上は歩いたと思う。僕は、やっと目的の場所にたどり着いた。
『疲れた?』
優しい声色のお爺さん。あの足跡の人だろう。
「大丈夫です。………ここは?」
『天国だよ』
「天国? ここが、天国………。なんだか眠くて……。少しだけ、寝てもいいですか?」
『いいよ。時間なら、無限にあるから。起きたら、君も僕たちと同じ白の住人だよ』
ぼやけた頭で考えていた。もしあの時、白い足跡じゃなく、隣の『黒い足跡』を選んでいたら………。
今は、どこにいたのかなって。
あの選択に、たいした理由なんてなかった。
だから、恐かった。