一つ年上、僕にはもったいない美人の彼女(雑誌のモデルをしている)が出来て二ヶ月が経った。ただ、まだお互いキスもしていない。特に進展はなかったが、それでも僕は日々の生活に満足していた。

学校の成績、小説の新人コンクールの選考など、最近はとにかくすべてが上手くいっていた。


「今度の日曜、デートしない?」

一瞬、驚いた顔をした彼女は猫のようにすり寄ってきた。

「嬉しい………。初めてだよね。ハクちゃんから誘ってくるなんて」

「うん。今までごめん。あまり、デートとか出来なくて」

「じゃあ、デートの後で家に来ない? パパやママね、ハクちゃんのこと大好きだから、早く連れて来いってしつこいの」

「分かった。行くよ」

「ありがとう。みんな喜ぶ。あのね、あのね、見たい映画があるの」

「うん」


日曜日。

映画を観た後、二人で手を繋ぎ、しばらく夜道を歩いた。竹林を抜け、高台から夜景を見た。夜景と言っても都会のような派手さはなく、それでも家や町工場の小さな明かりは、僕の気持ちを穏やかにしてくれた。


「あっ」

「どうしたの?」

突然、空が弾けた。今夜は、隣町で花火大会をやっているらしい。

音だけは立派な、小さな花火を見ていると、なんだか…急に……胸の奥が苦しくなり。体の一部を無くしたような喪失感に襲われた。

この感覚を知っている。『孤独』と『絶望』だ。

「大丈夫? さっきから震えてるよ?」

僕を心配してくれる優しい彼女の方をどうしても見ることが出来なかった。

「大丈夫………。大丈夫だよ」

何が大丈夫なのか、自分でも分からない。


◆◆◆◆◆◆◆【日常変】◆◆◆◆◆◆◆


友達と花火大会に行った帰り、酔っ払ったオヤジを見た。


道路脇でヨダレをたらしながら、爆睡していた。ソイツの横には、ピーーーもあり、私まで吐きそうになった。不快極まりない。


たぶん、地元のヤンキーがやったのだろう。そのオヤジの背中には、いくつもの踏まれた足跡がついていた。良く見ると、顔にもアザがあり、口元には血が滲んでいる。


その姿を少し哀れに思った私は、屋台の射的で手に入れたウサギのぬいぐるみをその酔っ払いの横にそっと置いて、その場を去った。


次の日、その酔っ払いが少し気になっていた私は、散歩がてら見に行くと。まぁ、当然だけどそこには誰もおらず、ぬいぐるみだけが放置されていた。



「ねぇ、ウサギさん。あの酔っ払いは?」




『君の後ろにいるよ』

私は、自分のした行動を後悔した。

『さぁ、僕と一緒に行こう』


私は、悪魔のようなこの男に拉致された。そして、地獄の監禁生活がスタートする。


今も。
私の横には、ウサギのぬいぐるみを使い、私に話しかける男がいる。



誰かーーーーーーーーー。

早く助けてッ!!