天国に戻って、ちょうど三ヶ月が経った。死神の仕事は相変わらず忙しくて、でもその忙しさのお陰で余計なことを考えずに済んだ。

「ねぇ、ナタリ。アナタが戻ってくれて本当に嬉しいわ。………下界に追放なんかしてごめんね。命令違反したアナタが、許せなかったの」

「いえ、謝らないで下さい。全部、私が悪いので」

「うんうん。まぁ、そうね。あっ! あの人間も結構イジメちゃったからさ、彼には特別に彼女をプレゼントしたから。人間の中で一番彼と相性の良い女をね」

「…………ありがとうございます」

「約束通り、もう二度と彼には手出ししないから大丈夫よ。それにさぁ、アナタにはあんな人間よりもっと素敵で優秀な者を私が選んであげるって。だから、寂しくないよ。心配しないで」

お姉ちゃんの汚れのない白い手で優しく頭を撫でられた。

でもーーーー。

彼とは、違う。

全然………違う…よ。ポロポロと目から何かがこぼれた。


◆◆◆◆◆◆【恋痛】◆◆◆◆◆◆


「こ…こ……は?」

「病院よ」

激しい頭痛。と吐き気。
目の前には、雑誌の表紙を飾れるレベルの美女。俺を試すような、とても不愉快な目をしていた。


「どうして病院に?」

「それは、あなたが病気だから」

「病気? いや……。いやいや、ふざけた事を言うな。俺は、健康だ。ここから出せ。今すぐっ!!」

「……………」

女は、体が痺れて動かない俺にゆっくりと近づき、耳もとで一言。


『おやすみなさい』


ビュッ。

太い注射を首に突き刺し、躊躇なく中の黄色い液体を流し入れた。



……………………………。
……………………。
……………。



「こ…こ……?」

「病院だよ」

「…………おれは……病気なのか?」

「うん。そうだよ。でも安心してね。私がついてるから」

女は、ゆっくりと寝ている俺に近づき、耳もとで一言。


『大好き』

ビュッ。


……………………………。
……………………。
……………。



「………?」

「気がついたのね。良かった」

「………ぃ…た…ぃ…ぃ…」

「うん。頭、痛いよね。それは、薬のせい。でもすぐに良くなるから」

「た…す……け………」

女は、ゆっくりと寝ている俺に近づき、耳もとで一言。


『一緒になろ』

ビュッ。



……………………………。
……………………。
……………。



「……だ…れ…?」

「私は、あなたの妻だよ」

「つ…ま……?」

妻は、ゆっくりと寝ている俺に近づき、耳もとで一言。


『やっと夫婦になれた』

ビュッ。

……………………………。
……………………。
……………。



ここは、病院じゃない。

俺の家だ。

ベッド、枕、シーツ、部屋のカーテン……何もかも。勝手に俺たちの寝室を変えられている。



俺の本当の妻は、無事なのか?

お前は、一体ダレなんだよ!!



「余計なことは、忘れろ」


ビューーーーーーーーーーーッ…………。