「ふぁ~、ん~、良く寝たぁ」

「大丈夫?」

ナタリに膝枕されていた。マシュマロ的な太股。今までに感じたことのない柔らかさと良い匂いが、首から脳へと伝播する。この状況に軽く眩暈がした。

「う~ん、ふぁ~~~」

「そのイケない手を股の間からどけないと、ひっぱたくよ?」

「………………」

「今は、ダメ。我慢して。安静にしてないとね」

まだ夢の続きを見ているのか。

それともーーーーー。

急に眠くなり、目を開けていられなくなった。

ナタリが、両手を叩く。

「次に目が覚めたら、すべて終わっているから………。アナタのこと、大好き。………本当に好き。だから…………。だからね、サヨナラしなくちゃいけないの。もう……アナタが傷つく姿を見たくないから。苦しめたくない………」

両目から、涙を流すナタリ。
この小さな手だけは絶対に離したくないのに!

力が抜け、何も考えられなかった。

『今まで、ごめんね』


◆◆◆◆◆【仮世界】◆◆◆◆◆

2200年。

世界の人口が、遂に100億を越えた。
地球温暖化の影響で、深刻な食糧難。人間は一部を除いて、【飢え】の時代に突入する。でも一番問題だったのは、その世界に住む人間の倫理が、狂ってしまったこと。

この人口増加に歯止めをかけるため、世界は【人間の選別】をすることを決めた。

5歳になると俺たち全員、強制的に受けさせられるテスト。その合否によって、その子の未来………いや、生死が決まる。

「お兄ちゃん……。私……たぶん今度のテストで」

可愛い俺の妹。他の弟と違い、コイツだけは俺に懐いてくれた。

「大丈夫だ、杏子。だから、そんなに心配するな」

「でも…………」

「大丈夫」

俺が、何とかする。


俺は、ある闇医者に頼み込み、全財産を使い、手術に臨んだ。

「あんたさぁ、妹にデータを全部移したら、廃人になるよ。脳のデータ抽出は、一番リスクが高いし」

「試験まで、あと2日しかないんだ。金は、払った。文句は言わずにやってくれ」

「はいはい。じゃあ、やりますよ」

俺は、一度だけ横をチラッと見た。俺の可愛い妹が、今もスヤスヤ寝ている。


弁護士になった俺を完璧に育て上げたと勘違いしている親。俺に憧れていると嘘をつき、いつも陰で俺の悪口を言っている弟たち。

でも、コイツは違う。

夏ーーーー

この妹が、少ない小遣いで買ってきてくれた加工アイスの味を俺は、絶対に忘れない。

「お…にいちゃん」

ありがとう、杏子。


さようなら、このクソったれの世界。