目的もなく、町をブラブラ。突然、目の前に人の姿をした『何か』が現れた。白いローブを纏っていて、顔は確認できない。

私の嫌いな偽善の匂いがする。

「あなたは、誰?」

「神様が呼んでいます。至急、天国にお戻りください」

「姉さんが? そう……。じゃあ、伝えて。今は戻る気はないって」

電柱の陰から現れた白いローブを纏った数人の男女。私の進路をふさいでいる。

「神の命令により、あなたを必ず連れて行きます」

「しつこいなぁ……。早く帰らないと夕飯作るの遅れちゃう」

ローブの輩は両手を合わせ、闇の言葉を呟き始めた。

突然襲う、凍えるような寒さ。実際、周囲の気温が明らかに下がっていた。真冬のように吐く息は白く、あっという間に銀世界が広がった。

「私達は、連れて来いと言われただけ。あなたの生死は関係ない」

「ふ~ん」


学校にいる彼氏ちゃん。今、テスト中みたい。
頑張ってるけど、少し先の未来で追試を受けている涙目の彼も見えた。

もし今、私がいなくなったら………。


「絶対、行かない」

彼と離れるなんて、考えられない。

だから、抵抗した。私の首を曲がった白刃で刎ねようとした神の使者を私特製のミニブラックホールに放り投げてやった。
…………………………。
………………。
………。


「ただいまぁ。はぁ、疲れた」

「あっ! お帰り。今夜は、カレーだよ。好きでしょ?」

「うん。美味しそうだね。着替えたら、僕も手伝うよ」

モノクロだった私の世界。でも今は、こんなにもカラフルに見える。


◆◆◆◆◆◆◆【桜日和】◆◆◆◆◆◆◆

俺は、親失格。愛する妻が、自分の命を犠牲にしてまで産んだ子。それなのに一度も俺は、その子を

春ーーーー。


息子を連れて散歩に出かけた。どうしてもこの桜を見せてやりたかった。

「綺麗だろ? ここさ、穴場なんだよ。よく、昔は……お前のママと見に来た」

「…………」

息子は、今日も口を聞いてくれなかった。

一度でいい。

一度でいいから、息子と会話がしたい。コイツの笑顔が見たい。


夏ーーーー。


秋に冬。


また一年が過ぎてしまった。

「……入るぞ」

息子は、今日も自室で静かに絵を描いていた。

「もう…ずっ…と……何を描いてるんだ?」


絵の中。俺と妻が仲良く手を繋ぎ、満開の桜を見上げている。その姿を『外』から楽しそうに見ている息子。


自然と溢れた涙は、自分の意思では止まらない。


「あしたは、今日よりも明るいから」

初めて聞いた息子の声。

「僕は、大丈夫だよ。父さん。もう、行って大丈夫」


俺は、親失格。息子が産まれる前に病でこの世を去った。何もしてあげられなかった。こんなに愛しているのに。


ゆっくりと目を閉じる。

最後にやっと見れた。


笑った息子を――――。