神様候補生の中で歴代トップタイの成績で合格したナタリは、その後も出世街道を爆走した。

「ナタリ。足を揉んでちょうだい」

「はい。神様」

モミモミ、モミモミ。

「ナタリ。能天使ちゃん達の戦闘訓練に付き合って。久しぶりにあなたの神器、武術を見たいから」

「はい。神様」

シュシュ、シュシュ。

「ナタリ。ねぇ、ねぇ、ねぇ」

ナタリは、神様の一番のお気に入りになっていた。ずば抜けた才能、謙虚で従順な性格。好かれて当然だった。

…………………………。
…………………。
……………。

神様の暇潰しが終わり、自分の部屋に戻るとため息が出た。

「はぁ~、疲れた」

二時間以上も神様の全身マッサージをしていたから、もう……手が痛くて痛くて。


でも明日、いよいよ私が神様になる為の最終試験がある。神様曰く、試験と言ってもとっ~ても簡単らしい。

だから、大丈夫だよね?

もうすぐ。

もうすぐ、私もーーーー。


朝早く、神様に呼ばれた。

「下界に降りて、この人間達の魂、百個を持ってきてちょうだい」

「…………」

「ね? 簡単でしょ~。それが最終試験。人間なんて私達にしてみたら、空気と一緒なんだから。早く終わらせてさぁ、盛大にお祝いしましょうね。何が食べたい?」

「…………………」

私は、神様に言われた通り、下界から百個の人間の魂を持ってきた。

「少しだけ、時間かかったね。でも合格だよ~。今、この瞬間からアナタは神様。私の大事な大事な妹になった。これからは私のこと、お姉ちゃんって呼びなさい。後でさ、私達のパパにもご挨拶しましょうね」

「はぃ………。お姉ちゃん」

どんなに手を洗っても拭えない。私の罪。

あの顔が、今も頭から離れない。

母親に抱っこされ、泣き叫ぶ子供。
戦争中で十分に栄養が取れず、痩せ細ったその体で、それでも必死に私から逃げる。血まみれの足で………。
涙を流し震えながら、それでも嫁子供を自分の後ろに隠して、錆びたナイフで最後の抵抗をする男もいた。私は、一切抵抗しなかった。彼らに体を切り刻まれ、腕を落とされ、銃撃で黒い穴を開けられても。

頭上の爆撃機から、無数の黒い塊が落ちてくる。これで死ねたら、どれだけ楽だろう……。

みんな、悪人じゃない。ただ、神様の『何となく』、私の最終試験の為だけに奪われた命。

彼らの未来、人生を奪い、殺して。

私は、『死神』になった。


私が死神になって数年後。いつの間にか、喜怒哀楽を忘れていた私は下界で偶然、彼に出会った。

夏祭り。

ガヤガヤ、ガヤガヤ。

騒がしく、活気溢れる世界の中。彼の周りだけが悲しみに満ちていた。誰かに捨てられ、泥だらけの三匹の金魚を両手で包むと、彼は誰もいない神社まで走り、大木の下に穴を掘り、その金魚を埋めていた。

「ごめん…ね……」

彼は、泣いていた。

隠れて見ていた私の頬を彼と同じモノが、静かに流れていた。枯れたはずの涙が、まだ残っていたことに驚いた。

「………ぅ……」

この人間ならーーーー。

こんな最低最悪な私が死んでも、私の為に泣いてくれるかもしれない。

私の朽ちた心に、温かい雨が降り注いでいた。