平日の夜。神様と一緒にハンバーガーを食べながら、テレビのお笑い番組を見ていた。

「この真ん中の芸人さん、六十三日後に死ぬよ。確か、魂の回収リストに載ってた」

「えぇっ! そう…なの? なんか………それ聞いたら、笑えなくなったわ」

ふと気になった事があったので聞いてみた。

「あのさ、神様の名前を教えてよ。これからは名前で呼びたいし」

「ぶ、ぶ、無礼なっ! 神を名前で呼ぶなななんて」

急に立ちあがり、口を尖らせて文句を言っている。正直、なんで無礼なのか全然分からない。僕は神様の首筋、透き通るような肌を人差し指で上下に往復させた。

「ひゅっ、んぅ……ダッ……メ…。し…ちゃ」

神様は、くすぐりにかなり弱い。唯一の弱点でもあった。五分後、汗ばんでくたくたになった神様は、ようやく観念して僕に名前を教えてくれた。


『ナタリ』


◆◆◆◆◆◆◆【神の子①】◆◆◆◆◆◆◆


下界に住む人間が手を合わせ、空を見上げ、各々の願いを神に届ける。


天の国。

人間が死の直前に一瞬だけ見ることを許される天の割れ目。そこから溢れた光を進み、初めて行ける場所。

「はぁ~~、人間ってホント勝手よね~。何でもかんでも神頼みだし。少しは、自分の力で何とかしろっての」

神様のストレスは、貯まる一方だった。

「ハハハ。確かにそうですね。あっ……。そういえば、今回の試験で面白い子がいましたよ」

神様の側に立つ大天使、ケルン。口髭を生やし、老いた彼はパチンッ!と指を鳴らした。すると神様の前にある映像が流れた。円形の広い講堂を埋め尽くす約一万の神様候補生が試験を受けている。皆、難問に頭を悩ませながらも必死に手を動かし、書き進めていた。


「ありゃりゃ。ダメダメじゃん、全然」

「はい……。確かにダメダメです。彼らは、何も分かっていない。あの試験は、神としての資質を見極める為のもの。高得点をとるテストじゃない。そもそも問題の数と内容は候補生それぞれ違うし。テスト用紙が候補生の内なる才を見抜き、その才能がある者ほど問題の数は少なく、簡単になる。だから、必死になって大量の問題を解いている時点で、自ら才能ないと宣言しているようなもの」

老天使は、神様の隣で寝そべる聖獣を撫でようと手を伸ばし、危うく腕まで噛みきられそうになった。慌てて、飛んで回避する。

「アッハッハ、相変わらず嫌われてるね~~。ところでさぁ、面白い子って誰?」

パチンッ!

また彼が指を鳴らすと、一人の少女が画面上に映し出された。その少女は、鉛筆を持ったまま、うとうと居眠りをしている。

「………………ふ~ん」

明らかに興味を示し、前のめりになった神様は、その子の様子を見て目を輝かせた。

「彼女は、プラハー・アンタシア・ナタリ。下級天使の家の子です。ですが、超特別。異質な存在です」

少女のテスト用紙には、問題が一問だけ。

『あなたの名前は?』


「あれれ? 確か、問題が一問だけなのって………」

「はい。そうです。天使から神様の地位まで上りつめたあなた様だけ。まぁ、あなたのお父様は別格なので参考にすらなりませんがね」

鬼気迫り、汗だくになりながら問題を解いていく候補生の中。
一人だけ、幸せそうに眠っている少女を見ながら、神様は久しぶりに身震いをしていた。