思い出したよ。あの時、焦げていく僕を見下ろす少女。

あの女の子は、神様だったのか……。

「ごめんなさい。ごめんなさい」

何度も何度も泣きながら謝る小さな神様は、瀕死の両親の体に触れると、ぬるっとその体から魂だけを抜き出し、小さな白い布袋に押し込んだ。
僕にも触れ、同じように魂を抜こうとする。

「な…か……ない…で」

「ッ!?」

どうせ助からない命なら。せめて最後は、そんな悲しいキミの顔は見たくない。
だから、笑って。前みたいにさ。

あの夏祭りの夜。奇跡の夜みたいに笑ってよ。

「パパ………。お姉ちゃん………。ごめんなさい。どうしてもこの人間だけは、死なせたくないの。最初で最後の私のワガママです。出来損ないで本当にごめんなさい」

神様に抱きしめられると、母親の胎内にいるように、なんとも言えない幸せが沁みてきた。


◆◆◆◆◆◆◆【廻る記憶】◆◆◆◆◆◆◆

今でも昨日のことのように思い出すことが出来る。それほど僕にとってアレは、衝撃的な出来事だった。

父が運転する車の中。

僕は、後部座席でぼんやりと外を見ていた。今日は、朝から雨が降り続いていた。

「どうして、また喧嘩をしたの? 相手の子、骨折までしたって言うじゃない。どう…し…て………」

喧嘩の理由。
考えてみたけど分からない。

「こんなに母さんを困らせてっ!! 二度と喧嘩はするなよ。これ以上、親に迷惑かけるな」

「ぅ………」


いつになったら、この雨やむのかな。

「ッ!!」

厳しい父が、また何か怒鳴っている。もう……聞き飽きたよ。車を止めて、早く解放してくれ。この空間は、息苦しくて気持ちが悪い。


その時ーーー。


逃げ道を探すように車窓から外の世界を見ていた僕は、どしゃ降りの中、傘もささず、一人でバス停に立っている女の子を見つけた。傘は、手に持っている。壊れたわけでもないだろう。全身が濡れ、綺麗な服が肌に張り付いていた。


ほんの一瞬だったけど僕には見えた。この女の子の泣き顔。泣いていた理由は、分からない。
正確にあちらも僕を見つめる。そんな子に一瞬で恋をした。

「!!!?」

突然の衝撃。

叫ぶ間さえ与えない。意思を持たない人形のように、体が上下左右に激しく揺れた。相当ひどい事故だったんだろう。痛みを通り越し、感覚のないこの体。もう助からないことは、何となく分かった。
そんな状況なのに、まだ僕は先ほどの少女の幻を追いかけていた。