神様と遊園地に行った。閉園間際、ほとんどの客が急いで帰るなか、まだ僕達はぼんやりと魔法の森をイメージしたイルミネーションを見ていた。
左手から伝わる確かな温もり。
僕は、神様に告白した。
「神様………。あのさ……。君のことが好きなんだ。だから、付き合わない?」
「すでにキスとかして、今更感が凄いけど。そもそも、どうしてハクシは私が好きなの?」
「優しいし……。可愛いから」
「なぁんか、普通だね。ん~~、私が姿形を変えられることは知ってるよね?」
そう耳元で囁くと、神様は次第に醜い老婆の姿になった。しかも体が腐敗しており、繋いでいた左手から蛆虫やらムカデらしき者達が僕の体にゆっくりと移行してくる。
「これが、本当の姿かも」
僕は、その老婆のしわくちゃな顔を見つめ、キスをした。
「やっぱり、ハクシは変わってる。まぁ、そこが面白いんだけどね」
元の可愛い姿に戻った神様は、何かを決意したように話し出した。その表情から、僕にとって良くないことを言おうとしてるのはすぐに分かった。
「私が、あなたの両親を殺したとしても? それでもまだ私を好きでいられる?」
殺した………。
神様が、僕の親を………。額から、冷たい汗が流れる。神様は僕から距離をとり、静かに離れた。
「それが真実…だったとしても、神様を嫌いにはならない」
「これを見てもそんなこと言えるかな」
「なに?」
パンッ!!
神様が両手を叩くと、周りの景色がガラッと変わった。一瞬で移動。気づくと道路の真ん中に立っていた。ガソリン臭く、目が痛い。前方で黒のワゴン車が、真っ赤な炎と黒煙を吐き出し、燃え続けていた。その潰れた車内には、まだ三人の人影が……。
あれは。
父さん。母さん。
それ…と………。
僕だった。
◆◆◆◆◆◆【青い炎と奇跡】◆◆◆◆◆◆
俺は彼女に出会い、彼女から【奇跡】を買った。
ある冬のこと。
死ぬ前に最後、不安を麻痺させるタバコを吸いたくなった。俺は、外に借金取りがいないことを確認するとボロアパートを逃げるように後にした。
ろくに食べていないせいか、走る元気がない。しかも、治る見込みのない病に冒されたこのカラダ。まぁ、こんな俺が死んだところで誰も悲しんだりしないが……。
コンビニに向かう途中、彼女に会った。凍える寒さだと言うのにずいぶん薄着。何かを両手に持ち、道行く人に声をかけていた。
「あ…の……。すみません。マッチいりませんか?」
そんな小さな声じゃ、誰も立ち止まらないだろう。
売る気あるのか?
俺もその他大勢と同じように彼女を無視した。
無視。
したはずだった。ほんの一瞬。無意識に彼女と目があった。
「……………」
「……………マッチ…ぃ」
「いらない」
どうして、立ち止まった?
そんな戸惑う俺に頬笑む彼女。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
二時間後。前から決めていた死に場所に着くと、俺は彼女から買ったマッチに一本、屋上のフェンスに寄りかかりながら静かに火をつけた。小さな青い炎。こんなどうでも良いモノを買うなんて、最後まで俺は。
「何やってんだ? バカだ、ほんと」
憎むつもりが、この炎にひどく癒され、俺は目を閉じた。俺しかいない屋上に、聞こえるはずのない優しい声が聞こえた。
『ねぇ、起きて』
目を覚ます。揺れる白いカーテンの隙間からは、描いたような青い空が見えた。
「起きた?」
「あぁ、うん……。おはよう」
「おはよう」
寝ている俺の隣には、愛しい妻。
突然、階段を駆け上る音がした。
「パパぁ、ママ。おはよーーーっ!!」
「おはよう」
「…………?」
俺と妻がいるベッドに思い切りダイブする可愛い息子。そんな息子の寝癖を優しく手櫛でなおす妻。
俺は、その夢のような幸せを一番近くで見ていた。
「あっ!? パパが、泣いてるぅ」
「どうしたの? アナタ」
「……なんでも。なんでもな…ぃ…」
夢でも良い。覚めないでくれ。
「今日は、良い天気だからお弁当持って出かけない?」
「そうだな。うん。楽しそうだ」
「じゃあ、準備を始めるね」
「ピクニック。ピクニック~」
部屋を出ていく愛妻と息子。その後ろ姿を見ながら、俺は枕元にあるマッチ箱から【最後のマッチ】を取り出し、震える指先で火をつけた。
左手から伝わる確かな温もり。
僕は、神様に告白した。
「神様………。あのさ……。君のことが好きなんだ。だから、付き合わない?」
「すでにキスとかして、今更感が凄いけど。そもそも、どうしてハクシは私が好きなの?」
「優しいし……。可愛いから」
「なぁんか、普通だね。ん~~、私が姿形を変えられることは知ってるよね?」
そう耳元で囁くと、神様は次第に醜い老婆の姿になった。しかも体が腐敗しており、繋いでいた左手から蛆虫やらムカデらしき者達が僕の体にゆっくりと移行してくる。
「これが、本当の姿かも」
僕は、その老婆のしわくちゃな顔を見つめ、キスをした。
「やっぱり、ハクシは変わってる。まぁ、そこが面白いんだけどね」
元の可愛い姿に戻った神様は、何かを決意したように話し出した。その表情から、僕にとって良くないことを言おうとしてるのはすぐに分かった。
「私が、あなたの両親を殺したとしても? それでもまだ私を好きでいられる?」
殺した………。
神様が、僕の親を………。額から、冷たい汗が流れる。神様は僕から距離をとり、静かに離れた。
「それが真実…だったとしても、神様を嫌いにはならない」
「これを見てもそんなこと言えるかな」
「なに?」
パンッ!!
神様が両手を叩くと、周りの景色がガラッと変わった。一瞬で移動。気づくと道路の真ん中に立っていた。ガソリン臭く、目が痛い。前方で黒のワゴン車が、真っ赤な炎と黒煙を吐き出し、燃え続けていた。その潰れた車内には、まだ三人の人影が……。
あれは。
父さん。母さん。
それ…と………。
僕だった。
◆◆◆◆◆◆【青い炎と奇跡】◆◆◆◆◆◆
俺は彼女に出会い、彼女から【奇跡】を買った。
ある冬のこと。
死ぬ前に最後、不安を麻痺させるタバコを吸いたくなった。俺は、外に借金取りがいないことを確認するとボロアパートを逃げるように後にした。
ろくに食べていないせいか、走る元気がない。しかも、治る見込みのない病に冒されたこのカラダ。まぁ、こんな俺が死んだところで誰も悲しんだりしないが……。
コンビニに向かう途中、彼女に会った。凍える寒さだと言うのにずいぶん薄着。何かを両手に持ち、道行く人に声をかけていた。
「あ…の……。すみません。マッチいりませんか?」
そんな小さな声じゃ、誰も立ち止まらないだろう。
売る気あるのか?
俺もその他大勢と同じように彼女を無視した。
無視。
したはずだった。ほんの一瞬。無意識に彼女と目があった。
「……………」
「……………マッチ…ぃ」
「いらない」
どうして、立ち止まった?
そんな戸惑う俺に頬笑む彼女。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
二時間後。前から決めていた死に場所に着くと、俺は彼女から買ったマッチに一本、屋上のフェンスに寄りかかりながら静かに火をつけた。小さな青い炎。こんなどうでも良いモノを買うなんて、最後まで俺は。
「何やってんだ? バカだ、ほんと」
憎むつもりが、この炎にひどく癒され、俺は目を閉じた。俺しかいない屋上に、聞こえるはずのない優しい声が聞こえた。
『ねぇ、起きて』
目を覚ます。揺れる白いカーテンの隙間からは、描いたような青い空が見えた。
「起きた?」
「あぁ、うん……。おはよう」
「おはよう」
寝ている俺の隣には、愛しい妻。
突然、階段を駆け上る音がした。
「パパぁ、ママ。おはよーーーっ!!」
「おはよう」
「…………?」
俺と妻がいるベッドに思い切りダイブする可愛い息子。そんな息子の寝癖を優しく手櫛でなおす妻。
俺は、その夢のような幸せを一番近くで見ていた。
「あっ!? パパが、泣いてるぅ」
「どうしたの? アナタ」
「……なんでも。なんでもな…ぃ…」
夢でも良い。覚めないでくれ。
「今日は、良い天気だからお弁当持って出かけない?」
「そうだな。うん。楽しそうだ」
「じゃあ、準備を始めるね」
「ピクニック。ピクニック~」
部屋を出ていく愛妻と息子。その後ろ姿を見ながら、俺は枕元にあるマッチ箱から【最後のマッチ】を取り出し、震える指先で火をつけた。