深夜。喉の乾きで目が覚めた。フラフラしながら一階に降りる。冷えた麦茶をコップ一杯飲み干し、少し落ち着くと同時、見慣れたはずのリビングが別の場所のように居心地悪く感じた。

「………?」

ソファーの上に自分そっくりな小さなマネキンが一体置かれていた。

こんなもの、誰が?
神様は、こんな悪ふざけはしないし。

左手で冷や汗を拭おうとしたが、自分の手じゃないように動きが鈍い。慌てて見ると、両手がマネキンのようなツヤツヤ光る作り物になっていた。

悪夢を、この世界全てを拒絶するように目を閉じ、体を丸めた。

『大丈夫。あなたには、私がついてる』

その優しい神の声だけが、救いだった。


◆◆◆◆◆◆◆【中の人】◆◆◆◆◆◆◆


久しぶりに飲み友が、家に遊びに来た。

「この話とは全く関係ないんだけど、俺の実家にさ、昔から何体もマネキンがあって。マネキン集めが、親父の趣味なんだ」

「マネキン?」

「うん、マネキン。ちなみに俺のお気に入りは、左足のないマネキンガールなんだけど……。今度、見る?」

「いやいやいやいや、そんなもん見るかよ! ってか、急に怖ぇな」

「うん。子供の頃は、そのマネキンだらけの状況が怖かったんだけどさ、今はなんだか慣れてきて。しかも最近は、左足がないのが可哀想になってきたから………。ネットとかで探してるんだ」

「マネキンの足を? 大丈夫か、お前」

「でもどうしても良いモノが見つからないんだよ。仕方ないから俺の足をあげようとしたんだけどさ、人形が嫌だって言うから」


俺は、台所からノコギリを持ってきた。


「っ!?」

「だからさ、お前の左足をくれよ」

「バっ、ま、ま、待てっ!!」


…………………………………。
…………………。
…………。



「な~んちゃってぇ~」

「おぃ………笑えないぞ、それ。はぁ~怖かった。お前さぁ、演技の才能あるかもな。目が、かなりヤバかったし」

「そう? やったぁー! 大成功。あっ…………。もう、そろそろ彼女が来るからさ。お前、帰れよ」

「急になんだよ。勝手過ぎるぞ。そんなんじゃ、いつか友達無くす。ってか、お前いつから彼女いたんだよ」

「最近、出来た~。じゃあ、また連絡するから。妹さんに宜しく」

「はぁ? 俺に妹なんていねぇぞ。誰と勘違いしてんだよ。…………まぁ、いいや。じゃあな、変態マネキン野郎」

「うん。また」


友達が帰ったのをカーテンの隙間から確認後。俺は、浴室にいる彼女に声をかけた。

大量の睡眠薬で今もスヤスヤ夢の中。


「アイツがさ、この細い足が好きだって言うから……。ごめん。悪いけどその左足もらうわ」


俺の背後に立つ大好きなマネキンガール。

『お兄ちゃん、元気そうだったね』

「うん。アイツさぁ、すっかり忘れてるよな~。自分が、元マネキンだったこと」