学校からの帰り。いつも通る道沿いにボロいアパートがある。そんな戦後からの生き残りの前に、かなり不釣り合いな高級外車がよく停まっている。最初は、借金取りのような闇関係かと思ったが、どうやら違うようだ。
危険な香りはしたが、この好奇心には抗えなかった。アパートの住人を装い、敷地内に入る。


◆◆◆◆◆◆【曲がり者】◆◆◆◆◆◆◆◆


ボロいアパートの前に一台の高級外車が停まった。

車の中から、マネキンのように感情が読めない数人の男が出てきた。おそらくボディーガードであろう男達が、忙しなく周囲を見渡し、危険がないことを確認している。しばらくして、子供のような背丈の老人がゆっくりと車内から出てきた。

フラフラ体を左右に揺らしながら、杖を支えに老人は歩く。その小さな体を支えようとした男を無言で拒絶。『104』と書かれた古いドアをノックした。

「開けてください」

「…………………」

「お願いしますっ!!」

「……うるさいなぁ。近所迷惑なんだよ」

部屋の奥から、低い男の声がした。


「くださいっ。私に時間を!! 生きる為に」

「お前は、何だ?」

「わ、私は無価値で汚れた、ただのゴミです」

「そうか…………………。入れ。ゴミよ」


しばらくして、壊れそうなドアが開いた。老人は、車の前で待機していた男達に合図をし、車内から金が入ったケースを急いで持ってこさせた。

部屋の前で一礼した老人は、裸足になり、ゆっくりと中へ入っていく。

…………………………。
…………………。
…………。

一時間後、同じ部屋から青年が出てきた。

「ありがとうございますっ!」

「………うるさいんだよ。クズ」

青年は、笑いながら走ると颯爽と車に乗り込んだ。その車は、臭いガスだけ残して消えた。


「忘れ物…………。まぁ、いっか」


無精髭。
シラミだらけの髪。
ひどく痩せた男は、老人が使っていた杖を珍しそうに眺めると、また静かに生活ゴミと万札で溢れた汚部屋の奥に消えていく。


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後で神様に聞いたら、あの男はこの世の者ではないと言う。

「ねぇ、ねぇ、バイト代出たらさ、一緒に遊園地行こうよ」

「行かない」

「人間の分際で、神の誘いを断るなんて、身のほど」

「あ~、うるさい。うるさい」

この興奮が冷めないうちに、彼が主役の物語を書いた。