ナオは、何度も何度もママに謝っていた。土下座までして。ゴチン、ゴチンと床に頭をぶつけていた。ママは、そんなナオを笑って許した。

帰り道。


まだナオのことが心配だったので、家まで一緒についていくことにした。それに最近、全然話が出来なかったし……。

「ねぇ………」


ーーー前園さんのこと、好きだったの?


「なに?」

「ぅ……ん? う~ん。はぁ~~、良い夜だね~。風が、気持ち良い」

「うん。気持ち良いね。ヒンヤリしてて」

「ちゃんと帰ったら、うがいと手洗いするんだよ?」


私は、ナオのこと大好きだよ。 ……殺したいくらい。この中途半端な関係。ほんと、キツイ。


「子供扱いが、激しいなぁ。………あのさ、ナナ。あの………。こっ! ここ、今度の三連休……。日曜に、二人で遊びに行かない?」

「ひぃっっっ!?」

「いやいやいやいや、そんなに驚かなくても。予定があるなら別にいいんだ。そっち優先でさ」

「私とあなたの二人きりですか?」

「うん。あまり遠出は、出来ないだろうけど。模試も終わったし。気分転換に。どう?」

「……………………」

「聞いてる?」

「……………」

「ナナ?」


ダッダッダッダッ!!!!


私は、全速力で走った。飛び上がるほど嬉しくて。ナオは、ちゃんと私を見てくれてた!!
それだけで、幸せが大爆発。

「っ…………と。で、結局。OKなのかな。走って、行っちゃったけど」


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かなりの上機嫌で帰ってきたナナちゃん。

「何か良いことあったの?」

「うえっへへへ~」

愛する娘の笑い方が、すごく気持ち悪かった。
でも、こんなにも幸せそうな顔を見て安心した。

今日が終わる少し前。私は、ちょ~と夜の散歩に出かけた。町外れの何とかって言う小高い山に登る。頂上から見下ろすと暗い町を一望できた。


「はぁ~~、気持ちいぃ」

この町は、ずっと変わらないな。

「やっぱり、ここだったんですね。はぁ~、年寄りにはキツイですよ。この時間に、この坂は……はぁ……」


初老の男性。
彼は一応、学校では教頭という肩書きを持っている。白髭が生えた顎をジョリジョリ触りながら、面倒臭そうに私の横に来た。


「教頭ちゃん。私ね、ここから見る景色が一番好きなの。派手過ぎず、地味過ぎず。都会過ぎず、田舎過ぎず。ほんと、平均的な良い町よね。ここ」


「そうですね~。ところで、校長。こんな夜中に私を呼びだして一体、何の用事ですか? また、厄介なことに首を突っこもうとしているみたいですが……。勘弁して下さいよ」

教頭は、長いタバコに火をつけた。やけに濃い煙が、どこまでも高く昇っていく。

「私と一緒に彼らの日本支部を襲ってもらいたいの。最近、彼らさぁ……。この町で好き勝手やってるから。私の大事な生徒も一人殺されたしね」

「う~ん」

「少し、キレちゃったの」

「穏やかじゃないなぁ~。奴等の構成員は、二百を軽く超えているんですよ? しかも、全員戦闘訓練を受けたプロだ。オリンピック選手レベル、いやそれ以上に肉体をヤバい薬で強化してるし。それを私とあなたの二人だけで?」

「嫌なら別にいいよ」

「別に嫌とは言っていません。ただ、あなたのような、か弱い女性は足手まといだなぁ……って」

「あっ! ひっどいな、その言い方」

「それに汚れ仕事は、昔から私の役目ですからね。一週間ください。その間に何とかしましょう」

「はい。分かりました。じゃあ、お願いします。気を付けてね」

「ふぁあぁ~眠い。では、また明日」

「うん。おやすみなさい」


教頭は、淡い夜に溶けるようにぬらっと目の前から消えた。梟が、鳴いている。

この戦争。

勝っても負けても地獄になる。今回の復讐劇で、いったいどれだけの血が流れるだろう。