地響きはどんどん激しくなり、レオは立っていることもできなくなる。穴はどんどん広がり、レオの所に断崖絶壁が迫ってきた。
「うわぁ! シアン――――!」
 叫ぶレオ。

 ズン!
 激しい閃光が穴から吹き上がり、激しい衝撃がレオを襲う。
「ひぃ――――!」
 レオの周りの地割れが急速に広がっていった。
「マズい!」
 レオが真っ青になって逃げようとした瞬間、地面が崩落し始める……。
「ぐわぁ――――!」
 地面と共に真っ逆さまに穴に落ちて行くレオ。手足をワタワタとしながらレオの身体は深い深い穴の奥へと吸い込まれていった……。
 レオには全てがスローモーションのように見える。崩落していく地面と共にゆるやかに宙を舞い、穴の開口部から見える青空がどんどん小さくなっていく……。
 王女を助けてって言っただけなのに、地獄の底へと落とされる理不尽さに、レオは気が遠くなり、激しい風切り音に身を任せていた――――。

 直後、レオはいきなり身体がふわっと浮き上がる感覚を覚える。そして、ふんわりと柔らかいものに受け止められた。
「え?」
 驚くレオ。
「セーフ! くしゃみは危険だねっ!」
 シアンが苦笑しながら言う。レオを受け止めたのはシアンだったのだ。
 レオは大きく息をつくと、
「……。もう……、死んだと思ったよ……」
 と、眉をひそめた。
「ゴメン、ゴメン!」
 シアンはそう言いながら、レオを抱きかかえたまま深い深い穴を地上へ向けて飛ぶ。
 レオはシアンの体温を感じながら、安堵に包まれた。
 それにしても王女様を助けるのになぜこんな大穴が開くのか、改めてシアンのメチャクチャさにレオは深いため息をついた。

 シアンはどんどんと上昇し、開口部を超えて上空まで一気に飛んだ。
 いきなり明るくなり、ブワッと広がる黄金色の麦畑……。
「わはぁ!」
 レオは生まれて初めて見る上空からの風景に圧倒される。広大に広がる麦畑に、キラキラと日差しを反射しながら流れる川、遠くに見える立派な街の城壁……。それはまるでおもちゃのミニチュアのように現実感を伴わないまま、レオの視界いっぱいに広がった。

 そして下を見ると、ポッカリと開いた底の見えない真っ黒な穴……。そこだけ、異様な禍々しさを放って存在していた。