仕事があることはいいことだ、と言ったくせに、自分の仕事に対しては疑問を
持ってるヤツがよく言うわ、なんて内心思ったりもして……。
「やっぱり手に職を持ってると違うものらしいぞ。それでな……」
父は黙り込んだ。自分で『手に職』と言ったものの、ただのネジ作り職人だっ
たことを『手に職』とやや誇大強調したのが恥ずかしかったのだろうか。
それとも……?
「いや、なんでもない。明日も仕事だろ、さっさと寝なさい」
そう言うと父は、テレビを消して自分の部屋に行ってしまった。まぁいいわ、
向こうから話してきたら明日聞いてあげよう。カフェオレをゆっくり飲み、
ぬくぬくとコタツでまどろむいつもの私であったが……。
「……あれ? 砂糖入れすぎたかな……」
カフェオレを初めて甘く感じ始めた夜だった。
翌日、東京の冬の日射しはどこか軟らかかった。私は下北沢で電車を降り、
劇団の稽古場へ向かう。
今日は三月に行われる公演の初本読みの日であった。
劇団の稽古場は築38年の五階建てビルの半地下にある。
お世辞にも外見は綺麗とは言えない、稽古場は以前ボクシングジムだったの
を改装した造りとなっていて、外見のそれとは裏腹に手前味噌ではあるが室内
は意外と綺麗なのである。というのも、ボクシングジムから稽古場へリフォー
ムする際、人件費削減と工務店の人たちの人数を最小限にしてもらい後は劇団
員総出で空間リフォームをした。そんな愛着ある稽古場なのだ。
劇団員は総勢20余名
ほとんどの人はアルバイトなどの掛け持ちの仕事をしている人が多い。
私みたいに役者だけでご飯が食べていけている人は全体の少数、テレビドラマ
にも出ているとなればそれはさらに極少数なのだ。
私は劇団員の中では売れっ子と言っちゃえばそれまでかも知れない。
果たして周りの劇団員はそんな私を妬ましく思っているのだろうか、
そう思いたくはないけど人間はそんなに完璧な生き物ではないしね……。
私を始め他の劇団員がフローリングの床に座って、次回公演のことについて雑
談している。すると背後から、
「竹内さん」
と、後輩の石川美沙が私の肩を軽く叩いた。
「あの、昨日のオーディションどうでした? やっぱり映画のオーディションってドラマとはちょっと違うんですかね」
真剣な眼差しで訊いてきた。
持ってるヤツがよく言うわ、なんて内心思ったりもして……。
「やっぱり手に職を持ってると違うものらしいぞ。それでな……」
父は黙り込んだ。自分で『手に職』と言ったものの、ただのネジ作り職人だっ
たことを『手に職』とやや誇大強調したのが恥ずかしかったのだろうか。
それとも……?
「いや、なんでもない。明日も仕事だろ、さっさと寝なさい」
そう言うと父は、テレビを消して自分の部屋に行ってしまった。まぁいいわ、
向こうから話してきたら明日聞いてあげよう。カフェオレをゆっくり飲み、
ぬくぬくとコタツでまどろむいつもの私であったが……。
「……あれ? 砂糖入れすぎたかな……」
カフェオレを初めて甘く感じ始めた夜だった。
翌日、東京の冬の日射しはどこか軟らかかった。私は下北沢で電車を降り、
劇団の稽古場へ向かう。
今日は三月に行われる公演の初本読みの日であった。
劇団の稽古場は築38年の五階建てビルの半地下にある。
お世辞にも外見は綺麗とは言えない、稽古場は以前ボクシングジムだったの
を改装した造りとなっていて、外見のそれとは裏腹に手前味噌ではあるが室内
は意外と綺麗なのである。というのも、ボクシングジムから稽古場へリフォー
ムする際、人件費削減と工務店の人たちの人数を最小限にしてもらい後は劇団
員総出で空間リフォームをした。そんな愛着ある稽古場なのだ。
劇団員は総勢20余名
ほとんどの人はアルバイトなどの掛け持ちの仕事をしている人が多い。
私みたいに役者だけでご飯が食べていけている人は全体の少数、テレビドラマ
にも出ているとなればそれはさらに極少数なのだ。
私は劇団員の中では売れっ子と言っちゃえばそれまでかも知れない。
果たして周りの劇団員はそんな私を妬ましく思っているのだろうか、
そう思いたくはないけど人間はそんなに完璧な生き物ではないしね……。
私を始め他の劇団員がフローリングの床に座って、次回公演のことについて雑
談している。すると背後から、
「竹内さん」
と、後輩の石川美沙が私の肩を軽く叩いた。
「あの、昨日のオーディションどうでした? やっぱり映画のオーディションってドラマとはちょっと違うんですかね」
真剣な眼差しで訊いてきた。