お湯が沸いたと機械がメロディーを鳴らしてくれた。

私はいそいそと脱衣所に消え、するするっと身に纏っていた服を脱ぎ去る。

鏡に映った私の体は相変わらずのスレンダー、相変わらずの貧乳……

ほっといて!

と自分で自分をツッコみ、慰める。そして一日の疲れ落とす、暖かい幸せの

小さな湖へ身を潜らせた。


「ふぅ……」


極楽気分とはこのことよ。この時間がいつまでも続けばいいな、

とマッタリ気分な私に天井からポタリと雫がよりにもよって脳天に落ちた。


「!……」


母から無言のアドバイスかも知れないと思った。

天国で「何呑気なこと言ってるの」と失笑してるのかしらね、きっと……。

お風呂から出てきた私はスウェット姿で、キッチンから冷蔵庫経由で

リビングにやって来た。こたつには布団を敷き終えた父がテレビで明日の

天気予報を見ていた。

こたつのテーブルにはクロスワードパズルの雑誌もあった。

元々母がクロスワード好きで、いつも答えをハガキに書いては送っていた。

そして景品がたまに当たったりして……懐かしい想い出よね。

父はそんな想い出を懐かしむべくやり始めて、次第に自分がハマってた。

頭も使うし運が良ければ景品も当たる、さらに言葉は悪いがボケ防止に持って

こいで一石三鳥!

私は手に持っていた暖かいカフェオレとプリンとスプーンをこたつのテーブル

に一端置き、近くにある仏壇に手を合わせた。

「ただいまお母さん」


 そしてぬくぬくとした世界に足を突っ込む。

「真希、シルバーセンターから今日電話があってな、明後日に行くことになっ   
たから」
「そう、ここんとこ結構あるね」
「まあな。一週間に二回ぐらい……だものな」

ちなみにシルバー人材センターとは、定年退職等で職業生活から引退過程に

あるか又は引退後ではあるが、健康で働く意欲と能力があるおおむね60歳以上

の高齢者である人で、市に登録すれば誰でも会員として参加できる地域に開か

れた組織である。

簡単に言えば、年寄りのアルバイトハローワークと言ったところか……。

あ、年寄りって言うと父は怒るからシルバーと呼ばせてるけれど。

まぁ、ある意味、長く人生を渡ってきたいぶし銀の人たちだものね。

「半年くらい前は一ヶ月、二ヶ月に一回くらいだったのに。でも仕事があることはいいことだよ」


と言い、私はカフェオレを一口飲むと、プリンを食べ始めた。