カフェオレ三十路女が「ちょっくら青春してみるっ!」 とガンバったら、結構深い沼にハマってしまった件

「今日は車で?」
「ああ、ビートルは近くの駐車場に」


ピカピカに磨かれたビートルは、まだまだご健在のようだ。

何より何より。

そう……あの後、私は再び東京で独り暮らしを始めた。

無論、父の元には私よりも素敵な人が住んでるのだから私は用ナシなのよね。

「ねえねえ、まだお二人は婚姻届け出さないんですかぁ?」


ちょっと皮肉っぽく言ってやった。

「久しぶりに会ったのに。全く」


父は笑いながらそう言うと、さっさと劇場を後に行ってしまった。
照れくさいの隠すの見え見えなんだから。


「良かったわ、お芝居。本当に良かったわ。心の奥までメッセージが突き刺さった感じ。元気が出たわ」


椎名さんは握手を私に求めてきた。

「そう言ってもらえると嬉しいです。ありがとうございます」


頭を下げ、私も椎名さんに握手をした。

その椎名さんの耳元には私と父からのプレゼントが光っていた。

あの真珠のイヤリングだ。

「お、おい、行くぞ!」


父がドアの向こうで椎名さんを恥ずかしげに呼ぶ声に、私たちは二人してクス

クスと笑った。

「なんか昔のお父さんに戻ったって感じですね。斜に構えてるというか、なんというか」


娘ながらの感想に、椎名さんも遠慮することなく「ホントに」と笑って言う。

もう私たちの関係は、腹割って話せる間柄になっていた。二人が籍さえ入れて

くれれば私はいつだって「お母さん」って椎名さんを呼ぶつもり。天国にいる

お母さんもきっと喜んでくれるよね……。

「そうそう、修司さんからこれを預かったの」


椎名さんは私に一枚の封筒を渡した。

「中はもちろん見てないけれど、私に真希ちゃんへ渡す時、こう言ってくれって。『たまには斜めから人生を見ることも大切だ』と」
「なんだろ?」


私は首を捻りつつ封筒を手にした。

「それじゃ、私は行くわね。帰ったら電話するから」
「うん」


そう言うと、椎名さんは父と共に劇場から去って行った。

私は封筒を開けて中の手紙を読んでみた。