カフェオレ三十路女が「ちょっくら青春してみるっ!」 とガンバったら、結構深い沼にハマってしまった件

「お、お父さん!」
「まだだ! まだまだ! なんとかサービスエリアまでは!」


父は願いは、かすかに天に通じたのか、最低時速80キロの高速道路をやっとこ

さ出るスピードの50キロで足柄サービスエリアになんとか滑り込んだ。


ブルルルル……
       ルル……
                  ル……。

人が亡くなる最後の時のように、静かにビートルのエンジンは停止してしまっ

た。

父はギアをニュートラルにし惰性で白線の中にある駐車場へ車を停めた。

父は無言だった。唇を噛みしめながら、ボンネットを開けると、ビートルの最

後の嘆きのような白煙が立ちこめた。

「ねぇお父さん……どうする? JAF呼ぼうか」
「いや、誰かに助けてもらっては意味がないんだ……」

父はそう捨て台詞を吐くと、再びエンジンを掛けた。何度も何度も。それでも

エンジンは掛からなかった。

「あの……お腹空いたんだけど……」
「お前は中で食べてこい。俺は……ここにいる」
「お父さん……」


それ以上、私は何も言わなかった。独りで夕食を食べ終えた頃、時計の針は夜

の7時を回ろうとしていた。

父の元へ戻ってくると、ビートルは相変わらず眠ったままだった。

それでも父は何度も何度もスーターターのキーを回し続けた。


ギギギ……ギギギ……。


やっぱり掛からない。それでも父は諦めず続ける。

二月の寒さが身にしみる。

この足柄サービスエリアは箱根の山岳地帯に位置するのに父の額にはじんわり

と汗が滲み出ていた。


「掛かってくれ……」



  ギ ギ
     ギ……
          ギギギギキギ……、
                  ブル、ブルルルルルン……!


ビートルは息を吹き返した。


「やったね、お父さん! これで帰れるじゃん!」
「いや、まだだ」

バッテリーの充電が足りないのかライトの明かりは不安定、しかも暖まったエ

ンジンを冷やす為にはラジエーターの水で冷やさなければならない。その循環

を良くする為にはバッテリーの電源をつけなくてはならない、だが只でさえバ

ッテリーの充電は底を突いてる感は否めない。

八方塞がりとはまさにこのことだった。