カフェオレ三十路女が「ちょっくら青春してみるっ!」 とガンバったら、結構深い沼にハマってしまった件

「あいつはそう言うヤツだったんだ。それによって車の安全性が高まり、どの車種にも使われれば言うことナシだよなって。俺もその通りだって思ったさ、後悔なんかしてないよ」
「ふぅ~ん。いるんだね、そういう人」
「それに一番嬉しかったのは、この車だ」
「ビートル?」
「そう、日本車だけでなくドイツのメーカーからもネジ山が潰れないネジの作り方を教えてくれとオファーが来た。嬉しかったねぇ、あの時は。そしてこの車にもそのネジは使われている」


父は嬉しそうだったが、私はあえてそうは思わなかった。

失礼なのかも知れないけれど。

この美談は日本人らしいと言えばらしいけど、もし特許を取っているとした

ら、その分の特許料のお金をまた新たな人材や設備に投資すれば、その人材や

設備を作り出す沢山の人が潤うのに……って思ってしまう。

どちらも人々が幸せになることは変わりはない。技術を無料で提供して、沢山

の車が安全になるのと、特許を取って、その分のお金で設備や人材に投資し、

それに携わる人々が潤った後、沢山の車が安全になる。

どちらが良いかは一概には言えない。ただ、過去の日本人らしいワビサビを持

ってすれば、父のような考え方が正しいのであろう。

どちらも人々が幸せになるという最終目標は一緒なのにね……

なーんて思っちゃう私は可愛くないヤツかしら……。


ビートルは東名高速を東へ突き進んでいた。

静岡県に入り、大井川を超え、霊峰富士を左手に走る。

山の稜線が茜色に染まりだし、夜の帳がそろそろ山々に降り始めようとしてい

た。

父はノンストップで走り続けた。ハンドルを離さなかった。

途中、何度かギアが入らない事があったが、ギアをニュートラルにし、惰性の

まま走行、その間にクラッチを何度か踏むことによって、奇跡的にギアが繋が

ったりもした。

その時、私のお腹がグゥゥウと鳴った。

「ねぇ、そろそろお腹減ったよぅ」


私の情けない声に父も笑いながら、サービスエリアで食事をすることに決め

た。

その時である。沼津、裾野を越えた頃、ビートルから焦げ臭い匂いが室内に微

かに充満し始めた。さらにバッテリーが切れかかっているのか、ライトがかな

り薄暗くほとんどライトは灯ってない状態にまで陥ってしまった。