カフェオレ三十路女が「ちょっくら青春してみるっ!」 とガンバったら、結構深い沼にハマってしまった件

ただ一つ違うのは、隣の助手席に乗ってるのが母ではなく娘だと言うことだ

け。

東名阪高速道路の大山田パーキングエリアで軽くサンドイッチを食べた以外

は、ひたすらハンドルを握る父だった。東名高速に乗り換えた後も、時折パー

キングエリアで休憩を挟む以外は東へ東へ法定速度を守りながら(それ以上出

スピードは出ないのだが)アスファルトの上を疾走していた。

ラジオからは往年のジャズ名曲集が流れ出してきた。

「この曲」


父がぽつりと言葉を漏らした。

「あいつ……好きだったんだよな」
「あいつって?」
「もう亡くなっちまったんだけど、俺の親友。この曲大好きだったんだ」


 父は感慨深げにその時の頃を思い返していた。

「その人は友達ではなくて、友達よりワンランク上の《親友》なんだね」
「ああ、ヤツと一緒に仕事して楽しかったさ。そしてこのビートルが私たちの誇りでもある」
「どういうこと?」


父はそれまで話さなかった過去の話をした。

「丁度、お前がまだ3歳くらいの時だ。それまで勤めてた工場を辞め、新らしく親友と二人でネジ工場を設立したんだ。勿論、有限会社で小さいながらも商売はそこそこ成り立っていた」
「えっ、でもこう言っちゃ悪いけど、ネジなんてどこも同じように思えるんだけどよく成功したね……」
「俺たちが作り出したネジってのはな……ネジ山が潰れないネジなんだ」


 父の言葉からはセピア色の想い出が読みとれた。

「それはもちろん当時としては活気的なことで、どこのメーカーもウチのそのネジが欲しいと依頼が殺到して、それはもう大変だった」
「すごいね、ネジについて詳しくはないけど、よくそのネジ山が潰れないネジってのを作ったね」


 父は子供のように茶目っ気一杯に笑って、

「まあな。実はその前の会社で、二人で密かに上司に内緒で開発してたんだ。で、完成した暁には、二人揃って辞めて自分たちの会社を作ろうと……野心に満ち溢れてたさ」
「お父さんもやるね」


 と言った所で、ちょっと不思議に思うことが私にはあった。

「でもそういうのって、特許取ってれば莫大なお金が入ってくるはずでしょ? 確かあの工場ってこう言っちゃナンだけどボロかったようね……まさか?」
「そのまさか。敢えて特許を取らなかったんだ」


 笑いながら父はそう言った。