「名前は分からないけど顔は見たことある女優」「脇役な人」

……世間では私をそう呼んでいるらしい。

それはそれで、とてもありがたいことだ。

それだけ演技が印象に残ってるということなのだから。

「8年目の女優さんかぁ……もう中堅の域に入るね」
「何言ってるの。まだ心は新人よ」


そう思いたかった。

実際、最近の私はモチベーションがかなり低下している。

というのも去年、今までずっと脇役、せいぜい3番手な人だった私が

分不相応にも主役ドラマをやらせていただいたのだ。

しかも夜10時からというゴールデンタイムで。


折角のオファーを断る理由もなく私は挑戦した。

テレビ業界は数字だけで勝負が決まる。

劇団出身の私からしてみれば納得いかないけどそうらしい。

結果、そのドラマは平均視聴率5%という惨敗を喫した。

「あのテレビ局のあの枠は元々視聴率取れない時間帯だから気にするな」
「裏のバラエティーが強いから仕方ないよ」

などという慰めの言葉も頂いたが勝負で言えば負けは負け。

それは揺るぎのない事実。週刊誌からは低視聴率の女と揶揄され.る始末……。


クシで髪をブローし始めたミサトちゃんは、ふと私の髪をじっと見つめていた。やがてピン! と一本だけやけに元気な白髪を摘んで、

「白髪ハッケーン。心は新人でも隠せないものは隠せないわね」


私はガクッとなった。とうとう若白髪……

いや、もう普通に白髪が生えてきたのかしら。

「抜くとその毛穴から空気が入って周りの髪にも影響をするから、短く切っておいた方がいいんだけど、どうする?」
「……うん、お願い~」


泣きそうな声で私は言った。

新人の心境からいつのまにか老婆のような心境に……。

というのは大げさか。とにかく、メンタル落ちて深く潜ってしまったことは事実だ。