私は隣のベットで眠る父を見た。父は私を優しい眼差しで見つめていた。
「……お父さん、その平気って言うのは、新しい素敵な人を見つけたから?」
私はあの時、イタリア料理店からシルバー人材センターの椎名さんと出てきた
父の光景を思い浮かべていた。
今思い返してみると、結構お似合いのカップルなのかも知れない。
途端に父が狼狽した顔になったのを私は見逃さなかった。
「な、なんだ。そんなの関係ない。もう寝る!」
父はぷいっと私に背を向けた。
人間って当たってることを指摘されると無意識のうちに嘘をつく生き物なの
ね、きっと。でもそれが人間らしいのかも知れない。
「頑張ってね……」
父の背中に私は優しく声を掛けた。小さく「おぅ」という声が父から聞こえて
私は心がほわっと暖かくなった。
窓に掛かったカーテンの隙間から、覗く満月、そんな私たちを嬉しそうに見守
っていた。
2月14日。曇りのち晴れ。
予定では、明日からまた舞台の稽古がある。
そのことを朝、父に伝えると、伊勢のビジネスホテルを朝の9時に出発した。
帰りのルートは時間待ちが懸念される伊勢湾フェリーではなく、国道23号線
から東名阪自動車道をひたすら北上して行った。
距離にして自宅まで約250キロ。一日で帰ることは大変だと思うが、それに敢
えて挑戦している父がそこにいた。
ビートルは、多少エンジン音がくすぶりながらもちゃんと走っている。
父もそんなビートルを嬉しそうに操っていた。
もう既に、ビートルは自宅を出てから、1000キロ突破をしようとしていた……
風を駆け抜ける黄色いビートルを、雲と空が見つめていた。
運転する父の横顔を見ていると、父はあえてこの旅に車を選んだ理由がなんと
なく分かった。
これは一種の挑戦なのよね、お父さん。
飛行機や鉄道ではなく、30年前と同じルートで、同じ車で、自分が操るこの車
で30年前と同じような姿を求めて旅立ち帰ることを求めていたんだと思う。
きっと最後まで走りきった時、父には充実感と同時にまだまだ現役で頑張れる
自分がここにいると証明したいに違いない。
「……お父さん、その平気って言うのは、新しい素敵な人を見つけたから?」
私はあの時、イタリア料理店からシルバー人材センターの椎名さんと出てきた
父の光景を思い浮かべていた。
今思い返してみると、結構お似合いのカップルなのかも知れない。
途端に父が狼狽した顔になったのを私は見逃さなかった。
「な、なんだ。そんなの関係ない。もう寝る!」
父はぷいっと私に背を向けた。
人間って当たってることを指摘されると無意識のうちに嘘をつく生き物なの
ね、きっと。でもそれが人間らしいのかも知れない。
「頑張ってね……」
父の背中に私は優しく声を掛けた。小さく「おぅ」という声が父から聞こえて
私は心がほわっと暖かくなった。
窓に掛かったカーテンの隙間から、覗く満月、そんな私たちを嬉しそうに見守
っていた。
2月14日。曇りのち晴れ。
予定では、明日からまた舞台の稽古がある。
そのことを朝、父に伝えると、伊勢のビジネスホテルを朝の9時に出発した。
帰りのルートは時間待ちが懸念される伊勢湾フェリーではなく、国道23号線
から東名阪自動車道をひたすら北上して行った。
距離にして自宅まで約250キロ。一日で帰ることは大変だと思うが、それに敢
えて挑戦している父がそこにいた。
ビートルは、多少エンジン音がくすぶりながらもちゃんと走っている。
父もそんなビートルを嬉しそうに操っていた。
もう既に、ビートルは自宅を出てから、1000キロ突破をしようとしていた……
風を駆け抜ける黄色いビートルを、雲と空が見つめていた。
運転する父の横顔を見ていると、父はあえてこの旅に車を選んだ理由がなんと
なく分かった。
これは一種の挑戦なのよね、お父さん。
飛行機や鉄道ではなく、30年前と同じルートで、同じ車で、自分が操るこの車
で30年前と同じような姿を求めて旅立ち帰ることを求めていたんだと思う。
きっと最後まで走りきった時、父には充実感と同時にまだまだ現役で頑張れる
自分がここにいると証明したいに違いない。
