カフェオレ三十路女が「ちょっくら青春してみるっ!」 とガンバったら、結構深い沼にハマってしまった件

ホテルに着くとツイン部屋に私たちはチェックインした。

父はシングル部屋二つでいいと私に気遣ったのだろうが、母との想い出を再び

思い返すのならツインの方がいい、そう私から願い出た。

何年ぶりだろう……父と隣同士のベットで眠るなんて。

小学生の頃以来かしら。

父はいつものように寝る前のクロスワードパズルをやっていた。

私はこっそりと持ってきた舞台の台本の暗記をしていた。

「すまんな、こんな旅に付き合わせて。迷惑だったろ」


父はクロスワードを雑誌を閉じると、私に向かってそう言った。

「ううん、そんなことないよ。私、結構楽しかったもん」
「そうか、それなら良かった」
「でも、ここで終わりだよね。それとも、これからまたどこか行くの? それはカンベンね」


 と、笑った。父も笑って、

「明日、家へ帰る。安心してくれ」
「良かった」


 ちょっと子供っぽく笑ってみせると、

「そろそろ寝るね。お父さんは?」
「ああ、もう寝る。明日、また早いからな」

父はクロスワード雑誌をテーブルに置き、眠りについた。私も寝る前の歯ブラ

シをし、部屋のライトを消して自分のベットに潜り込むと、

「おやすみ」


と言った。父も同じように、


「おやすみ」

と言った。

それからどれぐらいだろう、父が天井に向かって目を開けたまま、

こう切り出した。

「……来週からな、お前も一回来ただろう、あの学校で嘱託として先生をやることになった。シルバー人材センターからの出向としてでなく」
「そうだったんだ……おめでとう」


私も天井に向かってそう呟いた。

あの背広にネクタイもひょっとして、その面接だったのかも知れない、と私は

思った。


「いいぞ、もう俺に気ぃ遣わなくて」
「えっ」
「またしろよ、独り暮らし。その方が仕事に集中できるだろ」


 私は嬉しかった。父は私のことをちゃんと考えていてくれたからだ。

「俺のことは気にするな。もう平気だから」