
よく目を凝らして見つめると、確かに男岩の方に何か置いてあるのが見える。
そしてその二つの岩はしめ縄で堅く結ばれていた。
「でもなんでしめ縄で二つの岩が結ばれているの?」
「夫婦円満・縁結びの象徴なんだ、ほら、確かにこうして見ると岩の夫婦みたく見えるだろう?」
「うん、なんとなく……」
「夫婦でここへ来たら、必ず幸せになれるのさ」
確かにそういう言い伝えがあるのかも知れないけど……、
「ねぇお父さん、よく知ってるよね。初めてなのに」
父は言葉に一瞬詰まってたが、
「まあな。旅するんだ、これくらい知らないとな」
父は多少、見栄が入った感じの言い方をした。
「でも、私たち夫婦じゃなくて親子なんだけどね」
「……分かってる。さ、行くぞ」
父はそそくさと車に戻って行った。私もその後を追った。
なんでこの夫婦岩で降りたのかしら? ……まさか、私と?
ダメよ、近親相姦になるわよ、それって。
そもそもそんなの法が認めてくれないに決まってるじゃない。
ビートルを運転している父が、横にいる私を不信気にちらちらと見ていた。
「何困ったような顔してんだ?」
私はパッと顔が赤くなった。
「……別に。暖房がちょっと暖かいのよ」
と、私は暖房のスィッチをOFFにし、窓を少しだけ開けて誤魔化した。
いけないいけない、この妄想グセ、なんとかしなきゃ……。
「ねぇお父さん……この旅って、ひょっとしてお伊勢参りでしょ」
「よく分かったな」
「分かるわよ、そりゃ」
「日本人に生まれたからには一度は行かないとな」
「もぅ、だったら、初めっから行く時に教えてくれればいいのに」
私はぷぅっと頬を膨らませた。
そして……私はある事に気づいた。
「ねぇでも、それだったら、もっとオシャレな格好で来ても良かったのに、なんでこんな地味な格好でしかも香水とか許してくれなかったの?」
車はそろそろ伊勢神宮に到着しようとしていた。
「これだから近頃の若者は困る。そもそもな、神社仏閣にお参りしに行く時は、本当は正装で行くものなんだぞ」
