その後、養成所で着々と修練を積み、系列のヘアーメイク会社へスカウトされ

た私はミサトちゃんと出会った。彼女は私よりもヘアーメイクの腕もその人柄

も素敵だった。

でも全然悔しくはなかった。

私は私でアイデアで頑張るしかないと心に誓った記憶がある。

今の私が鏡を見ると、メイクは既に完成されつつあった。素材は大したことな

いのに、変身させてくれてサンクスだわ。

「相変わらずうまいね」


と、私の言葉にまんざらでもない様子のミサトちゃんは、

フフンと鼻で笑って、

「当たり前でしょ、何年プロでやってると思うの。もうかれこれ十年よ」
「そっか……ということは、あれからもう八年か……」

私はまた記憶の海に舞い戻った。

そうなのだ、そもそも女優になったのは8年前、とあるスタジオでドラマの撮

影に顔を出していた渡部三郎にスカウトされたのだ。いや、私から志願した、

と言った方が正解かもしれない。

当時も彼は劇団の主宰者で戯曲も書き舞台の演出もしていた。

さらにテレビの単発ドラマの脚本も書いていた。

その自ら書いた単発ドラマの撮影を見学しに来た時に彼からメイクを担当して

いた私とミサトちゃん、その他スタッフたちと一緒に『劇団セブンス』の次回

公演チケットをもらい観に行ったのだ。

衝撃を受けた。生で演劇を観るのも初めて。

物語にも引き込まれ、大きな劇場にマイクも使わずに声が響き渡る役者さんの

声量、演技の巧さに心臓がぐわんぐわんと波打った。

その波は今まで経験したことないくらい心の防波堤を完璧に打ち崩し、役者を

やってみたいというモチベーションとなった。

私は唐突ではあったが、渡部三郎に劇団に入れて欲しいと志願した。

後で彼から聞いた話しでは、私のことを面白いヤツと思ったらしい。

そして劇団に入っての一年目は猛稽古の毎日だった。

お給料もほとんど無い状態だったからバイトもした。

家がある厚木から劇団の稽古場がある下北沢まで急行で約45分ということもあ

って通える距離、それが私には助かった。

やがてチョイ役から準主役を任され、主役へとエスカレーターのように

スイスイと上がっていった。

それが入ってから三年目のことで、そこからチラホラとテレビでのお仕事も来

たりした。