私の人生はこの旅と同じどこへ向かって走り出しているのだろう……。

すると、私のポケットに入っていたスマホのバイブレーターが動き出した。

画面を見ると『渡部三郎』の文字が表示されていた。

「もしもし」
「俺だ。渡部だ。おはよう」
「うん、おはよ……」


私はどことなく躊躇した受け答えになっていた。

ケンカの後から何度も電話してくてくれているのに無視し続けていたこと、

昨夜、スポンサーのＣＭに出てた美沙ちゃんとのこと、

心には刻まれない複雑な気持ちは言葉として簡単に表せるはずがなかった。

「昨日の夜、メール入れといたんだけど、返信がなかったから電話したんだけど」
「あ、ごめん……スマホ見てなかったから……」
「そうか。今日の夜、みんなと一緒に劇を見に行かないか。チケットをいっぱい貰っちゃって……どうだ？」
「ありがたいんだけどムリそう……」
「今じゃなくて、今夜の７時からだけど。それでも？」
「うん、ごめんなさい」


　風で髪が掻き乱れつつ、私は話していた。

「そこどこ？　やけにうるさいようだけど……」
「実は今旅行中なの。海の上」
「海の上?!」


　渡部は驚いた様子だった。

「そっちも何か周りで声が聞こえるけど」
「うん、稽古場。みんな自主練で来ていてさ、俺は年度末調整のこととか色々やることあったんで稽古はＯＦＦにしてたんだけどね」
「そう……嬉しいね、演出家としては」
「ああ、だからちょっと来ないか？　この前の件で色々誤解してるみたいだし……」


誤解してるというのは、多分、美沙ちゃんが主役になって、私から彼女に自分

が乗り換えられたと私が誤解している……ということなのだろう。

でもそれは自分の中で誤解の紐は、昨夜見たＣＭで解けた。

だから、彼に対しては怒りどころか逆に謝りたい気持ちの自分がそこにはい

た。

「……もういいよ。紐はほどけたから。誤解してないから。それと……帰ったら話しがあるの」
「ん？」