父は、昨夜、私が浜辺で有森さんや内田さんと話していた頃、持ってきたクロ

スワードに夢中になっていたと言う。

「そうそう、ところで携帯メールでよく使われる文字ってなんなんだ? 日本語じゃないのか? いや、マスは三文字空いてるんだけど、ニホンゴじゃ四文字になっちまうし、ヒラガナでもないし、カンジだとワード数は当てはまるんだけど、他と文字と合わないし」


父はどうも他のワードはそれなりに考え、回答を埋めて行ったのにそれだけが

埋まらず頭を悩ましていたらしい。

「それって、絵文字だと思うよ」
「エモジ?」
「そう。例えば……」


 私は手に持っていたクロスワードパズルの雑誌の余白に書き出した。

「 💕 とか 😃 とか 💀 こういうのとか……」


 父はきょとんとした顔のまま、

「それがエモジというヤツなのか」
「まぁ、そうだけど……」
「文字じゃなくて絵じゃないか、それ」
「……まぁ、巷ではそういう風になってるから」


父は『エモジ』とパズルに書き込むと、その周りのワードと見事に当てはまっ

た。

「……ワカラン世の中だな」


父はブツブツ言いながら、他のクロスワードをやり始めた。

お邪魔みたいなので私は少し風に当たろうと甲板に出てみた。

冷たい風が頬や髪を撫でていく。だがとても爽やかだった。

一面の海、遠くには漁船の大漁旗が風に靡いていた。

地球は丸いと言うけれど、実際にこれだけ大海原の水平線を眺めてると、本当

に丸く見える。

それにしてもお父さん、すっかりクロスワードに夢中になっちゃって……

まるでお子ちゃまなんだからっ。

私はデッキの最後尾に行き、フェリーから出て遠ざかっていく白波を眺めてい

た。

遠くに見える渥美半島、あそこからわずか数十分でここまで来たのね。

過ぎ去っていく時間、
        過ぎ去っていく空気、
                 過ぎ去っていく未来……。

私はなぜこの旅に参加してるのだろう、

そしてこの旅もやがて過去となり、良い思い出と化して行くのだろうか。

そう思うと実に虚無感を覚えた。

父はなんでこの旅をしようと思ったんだろう、どこへ向かおうとしているのだ

ろう。

私の人生はこの旅と同じどこへ向かって走り出しているのだろう……。