「そんな人生に疲れて、夢に向かって頑張ってたその夢が虚像と悪意と裏切りで創られたものと分かってしまって、途方に暮れてたんです。田舎に帰って見合いでもしようかな、そんな風に思ってた時、近所の公民館に着ぐるみ人形劇団が来てることを知り、懐かしくなって見に行ったんです」
「それが、こばと座だったんですね」


 有森さんは深々と頷いた。

「私にとっては、ですよ。小学生の時、ぬいぐるみの劇団がウチの学校にも来た。それを見て『あぁ、お芝居っていいなぁ』と思い始めたのがきっかけでしたし。なんか基本に帰ったって感じですね。お金と権力、地位と名誉、惰性に流されて自分がなぜ役者になりたいと思ったのか、その本質を忘れちゃダメだって思い出させてくれたんです」


心をわし掴みにされたように私の心は痛かった。

確かに惰性に流されている自分がいたことは確かだったからだ。

私は自然と有森さんにお礼の言葉が出た。


「……ありがとう」
「えっ」
「実はね、私、ちょっと落ち込んでいたんだ、最近。落ち込むというか、迷っていたというか。でも、あなたの言うそういう気持ちを忘れたまま流されてた自分がいたことも確かだったの。そういうのをどこか認めたくない自分もいて……甘いカフェオレな自分がそこにはいて、その甘いカフェオレが好きだったのに、現実が分かった途端、その甘さが逆にイヤになって……みたいな。……ごめんね、自分でもなに言ってんのかよく分からないけど」


 私は自然と涙が滲み、笑いながら目尻の涙を拭った。

「だから、ここへ旅しに来たんですか? 自分を見つめ直す旅だと……」

内田さんが、興味深げに尋ねたので、私は咄嗟に否定した。

「そうじゃないの。この旅には実は私にもよく分からなくて……どこへ行くんだか」

有森さんと内田さんはきょとんと私を見たのだった。

こうなったら言うしかない、私は今日の出来事をそのまま話したのだった。

父が私と共に自殺するのかというカン違いに、二人は爆笑し、私も彼女らが今

日訪れた小学校での面白い話を聞いて大笑いした。楽屋でぬいぐるみの頭を取

って休憩していた所を小学生の子に見られてしまったことや、最後は涙でお別

れの挨拶をしてくれたこととか。