有森さんが私にぽつりと訊いた。

「テレビ関係の人って、数字数字って良く言われますけど、それって本当はテレビ局の営業関係の人たちだけがシビアになる大人の事情であって、女優さんにはあまりの関係ないですよね」
「……」


ハンマーで私の心の芯が叩かれた、そんな感じだった。

「詳しいんですね」
「ええ、私……以前、とある大手事務所のKに所属してたんです」
「Kって……有名女優ばかりのトップの……」


私は度肝を抜かれた。

「え、でも、なんで有森さん、人形劇なんかに……」


と、言ってから私は口をつぐんだ。「なんかに」は失敬よね。

でも彼女は笑って、気にしないで下さいとばかりに手を横に降った。

「いいんですよ。それ正直な気持ちだと思います」
「ごめんなさい……」
「自分からお辞めになったんですか?」
「ええ。もうかれこれ5年くらい前に」
「あの……よろしかったら理由を……」
「……」


有森さんは黙ったままだった。

波の音がその沈黙を少しだけ和らげていた。

「すみません、初対面なのに、こんなこと訊くの失礼ですよね」
「いえ、いいんです。私もあなたの演技は巧いなぁって思ってましたし、ここで出会えたのも光栄です」
「ホントホント」


内田さんがカラカラと笑いながら言った。有森さんは、砂浜に1の数字を人差し指で綴った。

「やっぱり一番になるのはそれなりの悪いことをしなくちゃ一番にはなれないんですかね……」
「……」
「それが理由ですかね」

そう言うと薄く笑った。

有森さんが何を伝えたかったのか分かるような気がした。

その悪さを自分の中で許されなくなって辞めたのね……。

有森さんは続けた。