窓からは恋路ヶ浜という美しい砂浜が続くのが見え、近くには椰子の実詩碑が

そびえ立っている。

ここはあの島崎藤村が作詞をした『椰子の実』のモデル地なのだ。

その美しい風景は、戦前戦中と軍用地として管轄されていた為、自然は手つか

ず状態、今もあの藤村が作詞した当時そのままの風景が眺められるのであっ

た。

私が部屋でその夕日傾く風景を眺めていると、部屋にルームメイトの二人が入

ってきた。

その人たちは着ぐるみ人形劇団・こばと座の劇団員の人たちだった。

全国の小学校や幼稚園、養護施設などを回り、着ぐるみを用いて子供たちに夢

を与えていると言うことだった。

シャープな感じを漂わせる優しそうな笑顔が特徴の有森さんは27歳、

明るくボーイッシュな感じの内田さんは20歳の子だった。

ロビーに降りると、父は新聞を読んでいて、計にして7、8人の人たちがテレ

ビを見たり雑談してたりしていた。

私は父の近くに寄ると、

「お父さん、質問なんだけどなんでわざわざここを選んだの?」
「なんだ不服か?」
「そうじゃないけど……でも、ここじゃなくても……」


 父は新聞を畳み、ロビーに目を配らせた。

「ここには色々な人たちが集まる。もっと高いホテルに泊まることができるのにこの親ぼく感が好きで泊まる人、外国からの旅行で日本に来ている人、日雇い労働者の人、卒業旅行の人、私たちみたいな親子で泊まりに来ている人、色々な人たちがいる」


周りを見てみた。白人風の人……ガタイが良い人……学生風の若い人……カッ

プルの人……そして劇団の人たちもいる。


「どうせなら色んな人たちと出会うことが旅の目的でもあると俺は思う」
「じゃあ、この旅は色んな人たちと出会う為の旅なの?」
「……ま、そーいうことにしておこう」


と言うと、クロスワードパズルを部屋に取りに行くと言って、私の前から姿を

消した。

父は何かを隠してるわね、絶対。

どこが本当の目的地なのか聞き出してみせるんだから!

するとその時、テレビで流れていたCMに私はふと目が止まった。

美沙ちゃんが劇団の今度の舞台作『偽りの幸せ』を協賛をしてくれたあのコス

メビューティー社のCMをしていたからだ。


「ひょっとして……そうか、そういうことだったのね」


私は全てを悟った。

美沙ちゃんがこのコスメビューティーのCMをやることは事前に決定してい

て、それに伴い商品の宣伝と美沙ちゃんのバックアップを兼ねての相乗効果を

期待して、美沙ちゃんを主役に抜擢させた……。