景色も市街地から、やがて畑が広がる風景と変わっていた。

夕方になりかけたぐらいの時、周りの風景を見れば、丘陵地に明かりを透明の

ビニールテントの中で煌々と灯す風景が多く見受けられた。

父に聞くと電照菊の栽培をしているのだと言う。

一日中、光を照らしておけば菊は早く成長し、より多く菊が早いサイクルで成

長し収穫できるということなのね。

でもなぜそんなことを父が知っているのだろうか? 初めて来たであろうこの

土地に、しかも花のことなんて全くと言って興味もない父が。

「ねぇお父さん、ところで今日はどこに泊まるの? ちゃんと予約入れてあるんでしょ」


父は走りながらキョロキョロ周りを見つつ、

「入れてない、これからだ」

と淡々と答えた。

「え、ちょっと待ってよ。そんなの信じられないっ。旅行してるのに宿の予約してないの?」


私がちょっと呆れを通り越して怒りを言葉に露わにした。

「確かここだと思うんだけど……」


地図で言うと渥美半島の先にある海岸線沿いに二階コンクリート建物の駐車場

へ車を停め、父は降り立った。

私も降り立ちその建物を見る。

そこは伊良湖ユースホステルという場所だった。ホステルと言ってもイマイチ

分からない人もいるかも知れない(という私もその一人だったけれど)。

ホステルというのは、ドイツで生まれた世界的な「旅の宿」ネットワークである。

誰もが安全に楽しく、そして経済的に旅ができるようにと考えられたもので、

現在、世界80カ国、5500のユースホステルがあると言われている。

日本でも北海道から沖縄まで約350のユースホステルがある。

宿泊料金は日本の場合、一泊3000円前後と大変経済的なのだと言う。

「こんな安いとこじゃなくても、私がお金出すからもっと高いホテルに泊まろうよ」

と言ってみたが、父は聞く耳を持たなかった。

中に入ると、昔の外国映画でよく出てくる寄宿舎みたいなものだった。

ロビーに、食堂、男女別れての家風呂、部屋は二階にあり男女棟が別れてい

た。八畳ぐらいの部屋に二段ベットが二つ置かれていて、それ意外は服を掛け

るハンガー、全身が映る鏡、ヒーター、それしかなかった。

本当に質素だわ……でもこの値段なら仕方ないのかもね、と一人納得するしか

なった。