スタジオに入るとまず楽屋にカバンを置き、進行表を確認、

そしてメイク室へ向かう。

「あ、真希ちゃん、おはよう~」

メイクのミサトちゃんが笑顔で出迎えてくれた。「っいしょ」と自然と漏れた

私の言葉に、同い歳のミサトちゃんは鏡越しに、

「結構お疲れモードでしょ?」

 と訊いてきた。

「まあね。色々お疲れモード」


コットンペーパーでそれまでしてあった化粧を落としてもらう。

するともうすぐで大台に突入した賞味期限切れの自分が鏡に映っていた。


「仕事仕事で気ぃ張ってばかりじゃ疲れちゃうよ。舞台にテレビドラマ、あと家事も大変なんでは?」

「うん……そだね」


ミサトちゃんは、私の親友の一人である。

というのも何を隠そう私は元々メイクさんだった。言わば元同僚の同期ゆえ不

満や悩みも話せる間柄なのだ。

元々私は高校生の頃までは内気で、男子と気軽に話すら出来ない女の子だっ

た。いや、今でもそんなに気軽には声を掛けたりはしないけど。

あの頃の私は良く言えば粛々とした少女、悪く言えばネガティヴで根暗な少女

だったと思う。別に今でも根暗が悪いとはもちろん思ってはいない、そんな表

面だけの軽さを尊重する世間に疑問を投げかけていた一人だったし。

今思えばあの頃から生真面目に生きてきたものだ。

私はオシャレがその頃から好きだった。

根暗な女の子でもオシャレが好きな子は当然いる。母からよく言われた


『女の子らしく』


という言葉が鍋の底についたコゲのように頭にこびりついて離れなれなかった

かも知れない。

オシャレにお化粧にと、当然傾倒していった。

勉強嫌いであった私は、大学に行くことを先生や親にも薦められたが、自分の

中では『大学=遊ぶ所』という概念がどこかにあった。

実際、高校の同級生だった人に後になって訊くと、私の考えはドンピシャリだ

ったらしく、遊びまくってたらしい。……ま、全ての人とは言えないけれど。

プロのヘアーメイク会社が新人を育てる養成所を開設するという当時にしては

画期的なスクール。その広告を見た私は触発された。

自分ですらメイクをするだけでもワクワクするのに、モデルさんや色んな人た

ちをヘアーメイクさせてもらえる……それだけでワクワクしていた。