このままだと名古屋、大阪あたりに行くのかしら……。

などと思ってた矢先、父は浜名湖サービスエリアから5キロほど走った所で

三ヶ日インターで東名を降り、浜名湖を横に一般道を走りだした。

「お父さん、浜名湖で釣りでもするの?」
「いや、釣りはしないけどな」

走ってると『浜名湖競艇』の看板が見えてきた。

「ひょっとして……ギャンブルする為にわざわざ?」


私は冷ややかな視線で運転する父を見たが、

「俺の人生そのものがギャンブルだからな。こういうのは、あまり面白くないだろ、やっても」


と、笑った。

人生そのものがギャンブルねぇ……

私は、お母さんから父は自動車部品のネジを作ってる工場にずっと勤めていた

ということだけを聞かされていた。

あとは車の整備免許も持っているということだけ。

父に関して私はそれしか知らない。

人生60年余り、色々なことがあったに違いない。でなかったら人生そのものが

ギャンブルなんてうまい例えは思いつかないわよね。


……私の人生もギャンブルみたいなものよ。ヘアメイクから役者さんだもの、

三十路で独り身だし。さすが親子だわ。

ビートルは弁天島温泉付近へ来ると、右折し国道1号線に出て、海岸線を横に

走りだした。

日が西に傾くまで私と父はFMをBGMに、時には時代遅れな懐かしいエンジ

ン音をBGMに、遠くかすかに聞こえる潮騒をBGMに色々な話しをした。

いつもは朴訥にしか話さない父がいつもにも増して楽しそうに話していた。

よくその車のオーナーは自分の車の車内は自部屋と同じ感覚になると聞く。

まさに自分の部屋で私と久しぶりに話している感覚なのかも知れない。

もう何年間、下手をすれば十何年こんなに父と話したことは無かった。

主に父は私のことについて尋ねて来て、私が答えるというパターン。

仕事のことはもちろん今度の舞台のことや、彼氏はいるのかとか(勿論渡部の

ことは適当に誤魔化したけど……)、フェオのこととか、私が小さい頃の想い

出話しとか……それはそれは父がこんなに饒舌だったのかと驚くほどだった。

地図を見ると渥美半島の先に向かって父はビートルを走らせていた。