私はこの旅はひょっとしたら、自殺しに行く旅ではないかということ。

だからあえて富士山で私たちが住んでた街を最後に上から見せたかったから上

たのではないか、ということを伝えた。

父は車を路肩に停め、腹を抱えて大笑いした。

「おいおい、大丈夫かァ」
「だ、だって、行き先言わないし……お母さんの三回忌を終えてからちょっと様子おかしかったし……」
「随分と想像力が激しいな、お前は。物書きになれるんじゃないか」


父はそう言うとハンドブレーキを降ろし、ギアをファーストに入れ、車を動か

し東名高速に乗った。

想像力が激しい?

確かにそうかも……。物書き? 

私なんか成れないわよ、多分……。

だって渡部みたいに才能も何もないんだから。


ビートルは高速道路をそれなりにのんびりとまた走り出し、右手に大きく見え

ていた富士の頂は小さくなっていた。

FMからは森高千里特集が流れていた。『雨』に続き『私がオバサンになって

も』が流れ出す。

オバサンであろう三十路の私にとっては、ある意味自虐的応援ソングよね、

これって……。

この先、私はどうなって行くのだろう。

来年の今頃は何をしてるのかしら……。このまま女優を続けていいのだろう

か。劇団にずっとこのまま居て、私にとってそれは良いことなのだろうか。何

かに妥協し生き続けて、決断しなければならないことに心のどこかで逃げてい

るのだろうか……。

そんなことをぼんやりと考えていた。

車は駿河湾を左手に快調にのんびりと走っていた。焼津、袋井、磐田と抜け、

浜松市に車は入った。

このビートルには時計が付いてないので、自分が持ってきたスマホのデジタル

表示の時計を見る。もうそろそろ12時になろうとしていた。

父は「そろそろお昼にするか」と言うので、私も頷いた。

ビートルも休憩したいであろう。

私たちは浜名湖サービスエリアに車を停め、昼食を取った。

父はせっかくだからと浜名湖名物のうな丼、私は同じ名物のうなぎスパゲッテ

ィーを食した。

ビートルの走行距離も厚木から富士山経由で200キロに達していた。

父はビートルにもレギュラーガソリン(ハイオクでなくてゴメンっ!)で

お腹いっぱいにさせてあげると、再び車を動き出した。