それにしても……やっぱり五合目まで来ると寒いわ。

吐く息は白く、高度は2000メートルは行っておりそれだけ太陽に近くもある訳

で直射日光はキツかった。

売店にある温度計を見ると、マイナス2度!

朝、家を出た頃でも8度くらいはあったのに……どうりで寒いわけね。

私と父は自動販売機に売られているホットコーヒーを200円出して買った。

父はいつもコーヒーを買うとしたらブラック。

私は……普通のコーヒーにしても良かったがあえてミルクは入ってない砂糖だ

けが入ったコーヒーを選んだ。

「カフェオレじゃないのか?」と父は聞いてきたので、

私は「もう大人なのよ」と言ってやった。

「そうか、そうだよな、俺も歳を取ったんだから当たり前だよな」

と薄く寂しそうに笑うと、「人生とはまさに、だ」と言った。

あれ、どこかで聞いたわ、その台詞……。

ま、いっか。

飲んでみると、またまた美味い。

砂糖だけのコーヒーもなかなかだわ。

今までコーヒーと言えば、砂糖とミルクいっぱいの甘いカフェオレが好きだっ

たのに、普通のコーヒーから砂糖だけが入ったコーヒーへと私の舌好みは変化

していた。

ということは……いずれはブラック?

コーヒーを飲み終え、私はまたビートルの元へ戻り、山を今度は下って行く。

なんか楽しい旅になりそう……。私はどこかワクワクした気分で、窓から眼下

に広がる富士山の緑の身体を眺めていた。

が、自分の中ですっかり忘れてたモノが蘇った。

この先向かうのは、青木ヶ原樹海かも知れないのだ。

最後だから、私たちが住んでる街を見下ろせる所で見せたかったのかも知れな

い。最後だから「俺も歳を取ったんだから当たり前だよな」って言った後、薄

く寂しそうに笑ったのかも知れない。

最後だから……親子揃っての旅行。

となると下着とか持ってきたのはきっと、着替えてからあの世に逝くつもりな

のかしら。向こうでは娯楽がないだろうからクロスワードバズルの雑誌も持っ

てきたのね、きっと。

ビートルは坂道をノロノロと下り、富士スカイラインから南富士エバーグリー

ンラインを通って裾野インターの入り口へと着いてしまった。

「あれ、お父さん……東名に戻ってきちゃっていいの?」
「ん? どういうことだ?」
「だって……」