ビートルは東名高速を御殿場インターチェンジで降りそのまま、

国道138号線から左折し246号線へ、今度は右折して御殿場登山道へと入

っていった。

標高が高くなるにつれ、耳鳴りもしだす。

私はグッと唾を飲み込み耳鳴りは収まった。だがこの先に待つ未知への不安で

私の鼓動は収まりそうもなかった。

やがて道は富士スカイラインへとなって、標高も1500メートルを越えた。

次第に道は右へ左へと蛇行道となって、ビートルのエンジン音も次第に悲鳴の

ように聞こえてきた。

外の景色を見れば、アスファルト以外は全て緑に囲まれ、

時折聞こえるのは富士演習場から聞こえる砲弾と着弾の音がこだまするだけだ

った。

「持ってくれよぉ、頼む……」


と、父はハンドルを握りながら、

ビートルに囁いたのを私は聞き逃さなかった。

FMはもちろんAMの電波もこの高度となるととっくに聞こえなくなり、

消していたからだ。

やがて緑もまばらとなり、溶岩石が露わとなった岩肌が道の片面にそびえ立つ

道となった。

シフトレバーはサードからセカンドへ、アクセルも目一杯に吹かしていた。

今の時代にはありえない黒煙がビートルの後ろから吐き出されていた。

それでもビートルは頑張った。

やがて私たちの前に駐車場とおみやげ小屋が見えてきた。

父は駐車場にビートルを停め、私たちは見晴台から見下ろせる場所に立った。


「すごい……」


左手を見れば相模湾から房総半島まで見える。

もちろん東京街下までも見渡せる。

右手を見れば静岡の茶畑、遠くに駿河湾が見渡せた。


「すごいだろ、絶景とはこういうのを言うんだ。神様みたいになった気分でちょっと得しちまうよな」
「うん、あそこに私たちが生活してるのよね」


 私は小っぽけな都市群の固まりを指さした。

「こうして見ると、私たちってなんて小さなことに怒ったり泣いたりしてるんだろうってほんと思うね。なんか小さなこととかクヨクヨするのがバカらしくなってきちゃう」


父も頷いた。私も頷いた。