「ねぇ、もうちょっと速く走ろうよー」
と、催促すると、父は笑いながらこう言った。
「これが限界。たまにはのんびりのドライブもいいモンだろ」
ラジオのチューニングをFMに合わせるとパーソナリティーが軽快に話しをし
ていた。
それにしても、走り出して気づいたのだが、このエンジン音、私の耳にはなん
となく『ブロロロ……』ではなく『ポンコツポンコツ』って聞こえてるような感じがした。
本人(ビートル)にそんなこと言ったら、怒ってエンストしちゃうかも知れな
いから言わないけど、私はどこか可笑しく思えてきて、一人ほくそ笑んだ。
高速道路なのにのんびりと左車線を走る。
大井松田インターを過ぎ、景色はベットタウンから緑連なる山々に変わっていた。
お父さんは一体どこに行こうとしてるのかしら……。
「お父さん、ちょっと聞いていい? 今日の旅はどこに行くの?
私を連れて行くんだから教えてくれてもいいんじゃない」
父はフフッと笑っただけでやはり答えてはくれなかった。
私は後部座席に置いてある地図帳を取り、見てみる。
スマホで今の現在位置を確認することもできたが、それをやっちゃあ、
せっかくの父のレトロティックな旅が台無しな気がしてやらなかった。
なんせ1938年から製造されてる車でのドライブなんだから!
今私たちが走ってるのは……ここらへん、松田町あたりなのね。
もう少し走れば都夫良野トンネルに入るわ……。
私は地図をじっと見ていたが、はたと気づいた。ひょっとしたら富士山に向か
ってるのでは……と。
この時、私はある記憶が蘇った。
今度やる舞台の『幸せの偽り』だ。自殺志望者の仲間たちが富士の青木ヶ原樹
海を彷徨うお話で……。
ま、まさか、父は……。
私は運転している父の横顔を見た。ラジオから流れてくる曲に鼻歌しながら運
転している。なんとも幸せそうに。
『幸せの偽り』か……。
ひょっとして、その笑ってる姿は偽りの姿で、父が向かってる先は青木ヶ原樹
海でははないのか。そう本気で思えてきたのだった。
「真希、どうせだから富士山にでも行ってみるか」
「えっ」
「頂上とまでには行かないけど、車で行ける五合目までだ。五合目でもそこから見える景色は絶景だぞ」
「……遠慮しときます」
そのまま富士山に行って、青木ヶ原で逝くとなったらゴメンだわ、
いやホントに。
「親子で遠慮なんかするな」
「遠慮じゃなくて、まだ逝きたくないだけ」
「ここまで来たんだ、せっかくだから行かなきゃな」
まさか『死に行くんでしょ』なんて怖くて言えず、私はそのまま無言を通した。
と、催促すると、父は笑いながらこう言った。
「これが限界。たまにはのんびりのドライブもいいモンだろ」
ラジオのチューニングをFMに合わせるとパーソナリティーが軽快に話しをし
ていた。
それにしても、走り出して気づいたのだが、このエンジン音、私の耳にはなん
となく『ブロロロ……』ではなく『ポンコツポンコツ』って聞こえてるような感じがした。
本人(ビートル)にそんなこと言ったら、怒ってエンストしちゃうかも知れな
いから言わないけど、私はどこか可笑しく思えてきて、一人ほくそ笑んだ。
高速道路なのにのんびりと左車線を走る。
大井松田インターを過ぎ、景色はベットタウンから緑連なる山々に変わっていた。
お父さんは一体どこに行こうとしてるのかしら……。
「お父さん、ちょっと聞いていい? 今日の旅はどこに行くの?
私を連れて行くんだから教えてくれてもいいんじゃない」
父はフフッと笑っただけでやはり答えてはくれなかった。
私は後部座席に置いてある地図帳を取り、見てみる。
スマホで今の現在位置を確認することもできたが、それをやっちゃあ、
せっかくの父のレトロティックな旅が台無しな気がしてやらなかった。
なんせ1938年から製造されてる車でのドライブなんだから!
今私たちが走ってるのは……ここらへん、松田町あたりなのね。
もう少し走れば都夫良野トンネルに入るわ……。
私は地図をじっと見ていたが、はたと気づいた。ひょっとしたら富士山に向か
ってるのでは……と。
この時、私はある記憶が蘇った。
今度やる舞台の『幸せの偽り』だ。自殺志望者の仲間たちが富士の青木ヶ原樹
海を彷徨うお話で……。
ま、まさか、父は……。
私は運転している父の横顔を見た。ラジオから流れてくる曲に鼻歌しながら運
転している。なんとも幸せそうに。
『幸せの偽り』か……。
ひょっとして、その笑ってる姿は偽りの姿で、父が向かってる先は青木ヶ原樹
海でははないのか。そう本気で思えてきたのだった。
「真希、どうせだから富士山にでも行ってみるか」
「えっ」
「頂上とまでには行かないけど、車で行ける五合目までだ。五合目でもそこから見える景色は絶景だぞ」
「……遠慮しときます」
そのまま富士山に行って、青木ヶ原で逝くとなったらゴメンだわ、
いやホントに。
「親子で遠慮なんかするな」
「遠慮じゃなくて、まだ逝きたくないだけ」
「ここまで来たんだ、せっかくだから行かなきゃな」
まさか『死に行くんでしょ』なんて怖くて言えず、私はそのまま無言を通した。