私は小腹が空いたので、家へ帰るまでの足しとして、駅前のマクドナルドに彼

女と寄った。

彼女もバイトまでの時間は少しあるし、私の奢りという言葉が誘い水となって

付いて来たのだろう。

皆、若者は夢を追って東京へやってくる。

彼女とは改まって話すのは初めてだ。聞けば、新潟の松代町という所から大学

進学の為に上京し、田舎とは違う都会での暮らしに悪戦苦闘してる最中。

昼間は大学に通い、夜は劇団の稽古、深夜はバイトと身体が持つのか心配なほ

ど頑張っているらしい。

私が身体のことを心配すると、彼女は、

「大学には昼寝しに行ってるみたいものです」って笑って答えた。

オシャレや男の子と遊びたい盛りなのに、それを削ってまで頑張れるのはやは

り夢を叶えたいからの一心であった。

「竹内さんみたいなテレビにも出るような有名な女優さんになりたいです」


と、彼女は言った。

『有名な』は半分いや九割九分お世辞だろう、

そこまで情熱を熱く話す彼女を見て、無くなりかけたその情熱はどこへ行った

のかしら……と思う自分だった。

私の情熱はこの身体の中にまだあるのかしら……あるとしたら、再び目覚めな

くちゃいけない。

小腹も満足となり、私たちは店を出た。

下北沢の駅に着くと、彼女は私とは逆方向、新宿へ向かうガラガラの電車に乗

って行った。

私はその電車とは反対側のプラットホームから、下りの電車に乗った。

それぞれ反対方向へ向かうそれは、将来を希望に満ちた目で見ているか、将来

を希望から不安へと化した目で見ているかの違いでもあった。

家に着く頃にはもう夜の10時になろうとしていた。

フェオも犬小屋でぐっすり就寝中だ。

家の中は暗闇のままだった。そこには父の姿はなかった。

「あれ? お父さん? お父さん?」


呼べども父の姿はどこにもいなかった。

リビング。キッチン。父の部屋。お風呂場。トイレ。どこにもいなかった。

一体どこに行ったのだろう……。

どうしても私の中でしてはいけない想像をしてしまう。

玄関のカギは開いていたし、強盗に入られて父はさらわれた?!

でもタンスなど荒されてる形跡はないし……。

私は家の中を駆け回り玄関に戻ってくると、上がり框に腰を降ろし冷静に考え

てみた。