オーディション出演者が集う一角の席に座り、ライバルたちの顔を見る。

マネージャーに肩を叩かれ励まされている落胆した顔、勝ち誇った顔、

自信に溢れた顔、顔、顔……。

監督が来て、後日連絡しますとの事でそのオーディションは終わった。

内心、後日連絡しなくても自分が一番良く分かってます、と言いたかった。

これが本音。

東宝スタジオからタクシーで次のお仕事である連続ドラマの撮影が行われてい

るAスタジオへ向かう。

私の手元には大好きなカフェオレの缶。ぐびくびと飲み、ほっと一息をつく。

ラジオからはサッカー日本代表の親善試合が流れてた。

「これを見ているJリーガー選手もいっぱいいるんでしょうね」

ドライバーのお兄さんも「でしょうね」と笑顔で答えた。

「ベテランのサッカーの選手も、日本代表に選ばれることはもうないのに、チ
ームでプレーしてて虚しくないのかしら……?」

「まずチームありき、だと思いますよ。それから代表ですよ」

と、ドライバーのお兄さんは言う。

なるほど。それが普通の人たちの回答なのかも知れない。

「お兄さん、サッカー通?」

「あはは、普通のサポーターですよ」

タクシーはそろそろAスタジオに着こうとしていた。

「代表に何年も選ばれてて、ずっとレギュラー、でも年齢には勝てずに代表からは数年前から落とされて、そういう人はクラブのチームでも頑張れるんでしょうかね?」

 私はちょっと饒舌っぽく訊いてみた。

「モチベーションをどう維持できるか、ですね~。でも家族がいるんだから、そう簡単にやめられないでしょ。お金もそれなりに貰ってるだろうし。
僕にしてみれば羨ましい悩みですよ」


薄く笑ってそのお兄さん運転手は、ハザードランプをつけ、Aスタジオ前で

タクシーを停めた。

代金を払い、お釣りを貰った降りようとした所で「頑張ってくださいね」と言

われた。私はふと女優だと言うことを忘れてさっきの質問をしていたことに気

づいた。

……さっきのこと、私と照らし合わせて言ったと思われたらヤだな……。

手に持つカフェオレの缶をグッと握りつぶす。

もちろん潰れるほどの力など私にはない。バツ悪くなって近くのゴミ箱にポイ

してやった。私はいつポイ捨てされるんでしょ。

……ふぅ、自虐的になりつつある私がそこにいた。