日が西に傾きかけてもフェオは無邪気に一人で遊んでいた。
「犬は気楽でいいわね……」と、とてつもなく低レヴェルな愚痴を言いそうに
なった。
私はようやく重い腰を持ち上げ、帰り道をのんびりとのんびりと帰った。
差し込む夕日が私とフェオの影をどこまでも長く伸ばしていた。
家に到着し、フェオを犬小屋の中へ入れる。そして玄関のカギを開けると、上
がり框の下に父の靴が置いてあった。
父の部屋のドアを開けると、父は背中越しで何かを見ていた。
「……お父さん?」
私の声にビックリした父は振り返り、手に持っていた眺めていたものを咄嗟に
背へ隠した。
「なんだ、帰ってきたのか。買い物だったのか?」
落ち着き払ってはいるものの『目は物を言う』とはよく言ったものだ。
視線だけはどこか落ち着かない父だった。
「買い物は午前中に済ませちゃったから。フェオの散歩に」
「……そうか」
父は再びタンスにそれを仕舞うと、自分の部屋から私を追い出すようにしてリ
ビングへ向かわせた。
「お、お父さん?」
「明日は法事で色々と準備があるから、ちょっと手伝ってくれ」
「う、うん」
「お母さんも、久しぶりにあの世から還ってくるんだ。ちゃんとやらないと怒られる」
父はそう言うと苦笑して、
「ちゃんとやり終えてから、また出発しなきゃな」
と言った。一人感慨にふけるように。
私は言おうかどうか迷っていた。椎名さんと仲良くしていた所を見たこと。
さっき隠したものはなんだったのか……この二点。
「あのね、お父さん……」
父が私を見た。
喉まで言葉が出かかった。でも、ここで言って、父は喜ぶのだろうか。
もしあの椎名さんと仲良く付き合ってるのだったら、それはそれでいいのでは
ないのか。父だって今は独身の身……恋だってしてもいいはず。
「……ううん、なんでもない。お母さん、今ごろあっちで、こっちへ来る準備してるんだろうね」
私は笑顔でそう言い、以後その話題は一切触れないようにした。
私が聞きたかった言葉は、いずれ父自らが私に聞かせる言葉で無ければならな
い。
それが親子の絆ってものだと思うから……その日が来るまで待とう。
ウン。
「犬は気楽でいいわね……」と、とてつもなく低レヴェルな愚痴を言いそうに
なった。
私はようやく重い腰を持ち上げ、帰り道をのんびりとのんびりと帰った。
差し込む夕日が私とフェオの影をどこまでも長く伸ばしていた。
家に到着し、フェオを犬小屋の中へ入れる。そして玄関のカギを開けると、上
がり框の下に父の靴が置いてあった。
父の部屋のドアを開けると、父は背中越しで何かを見ていた。
「……お父さん?」
私の声にビックリした父は振り返り、手に持っていた眺めていたものを咄嗟に
背へ隠した。
「なんだ、帰ってきたのか。買い物だったのか?」
落ち着き払ってはいるものの『目は物を言う』とはよく言ったものだ。
視線だけはどこか落ち着かない父だった。
「買い物は午前中に済ませちゃったから。フェオの散歩に」
「……そうか」
父は再びタンスにそれを仕舞うと、自分の部屋から私を追い出すようにしてリ
ビングへ向かわせた。
「お、お父さん?」
「明日は法事で色々と準備があるから、ちょっと手伝ってくれ」
「う、うん」
「お母さんも、久しぶりにあの世から還ってくるんだ。ちゃんとやらないと怒られる」
父はそう言うと苦笑して、
「ちゃんとやり終えてから、また出発しなきゃな」
と言った。一人感慨にふけるように。
私は言おうかどうか迷っていた。椎名さんと仲良くしていた所を見たこと。
さっき隠したものはなんだったのか……この二点。
「あのね、お父さん……」
父が私を見た。
喉まで言葉が出かかった。でも、ここで言って、父は喜ぶのだろうか。
もしあの椎名さんと仲良く付き合ってるのだったら、それはそれでいいのでは
ないのか。父だって今は独身の身……恋だってしてもいいはず。
「……ううん、なんでもない。お母さん、今ごろあっちで、こっちへ来る準備してるんだろうね」
私は笑顔でそう言い、以後その話題は一切触れないようにした。
私が聞きたかった言葉は、いずれ父自らが私に聞かせる言葉で無ければならな
い。
それが親子の絆ってものだと思うから……その日が来るまで待とう。
ウン。