そんなこととはつゆ知らない私は、疑念の眼差しで窓越しに映る二人を見つめ

ていた。
私は女の武器で主役をゲットした訳ではない。

でも、あの子はきっとそれで主役を射止めたのよ。

そうに違いない。

その考えは一寸の狂いもなく私の心に突き刺さったままだった。

するとドアからお客が出てきた年老いた男の人とご婦人だ。

まぁ私には関係のない二人だわ……と思って視線を切ろうとしたが、私は目を

大きく見開いた。

晴天の霹靂とはまさにこの事だった。

その二人とは父とシルバーセンターで私と話したあの椎名さんだったからだ。

な、な、なんで二人が一緒にいるの?! まさか……。 


私は息を呑んで、楽しそうに二人が会話しながら歩いていく後ろ姿を見送って

いた。

頭の中はコーヒーの中にミルクを入れ、さらにぐちゃぐちゃに泡立つくらいに

スプーンでかき混ぜた、そんな感じだった。

「クゥ~ン?」と、フェオもチンプンカンプンな顔で私を見上げていた。

整理してみる。

私は偶然、渡部の愛車を見つけた。そしてその渡部は美沙ちゃんと二人っきり

でランチを取っていた。さらにその同じ店から、父とシルバーセンターに働い

ていた椎名さんが一緒に出てきた……。

渡部と美沙ちゃんは付き合ってる可能性が高い。だから、今度の舞台での主役

を貰ったのだろう……そして父の方は……。

と、私は父の後ろ姿に目を再び向けた。父は……椎名さんと腕を組んでいた。

二人の絆はその腕を組み合わすぐらいしっかりとしたものなのだろうか。

それともその前段階なのだろうか。

ぐちゃぐちゃにかき混ぜたコーヒーの上に、さらに紅茶を注ぎ込んだ

ような……もう訳が分からない、そんな気分だった。

そりゃぁ父だって男よ。母が亡くなって来週で二年が経とうとしている。

いつまでも過去を引きずるのは良くないことは判っている。

「……」

でも、やっぱりその現実に目を背けたい私がそこにいた。

私は電柱の陰にアスファルトから芽が出ている雑草を思わず二度蹴飛ばした。

一日で二回、こんなショッキングな現実を蹴け飛ばしたかったのかも知れな

い。まだまだ青い私。

……なんて今日は最悪な日なんだろう。

北風が私にだけ一層強く当たっている自虐になりだしている冬の午後だった。

私はすぐ家に帰りたくなかった。遠回りして河川敷の方へ行き、土手に座っ

て、フェオを草むらで遊ばしておいて、それをぼんやりと見ていた。