どこかの家のペットだったらしく首輪が付いていた。

帰巣本能というのが犬にはあるから、帰りたければ一人で元の家へ帰るだろう

とタカをくくっていたのだが、結果として一年以上もウチに住み着いてしまっ

た。

ずいぶん男気がある気骨な性格かと思いきや、意外と自尊心が高くておぼっち

ゃまなフェオくんである。

初めは毎日同じような味のドックフードを与えてたが、そっぽを向かれ、

頭に来たから私たちと同じおかずとご飯とおみそ汁を与えたらこぼさずに全部

平らげた。

飲み物も普通はお水を与えるが、それがお気に召さないらしい。

試しに私が当時大好きだったカフェオレを与えたら、偉くお気に召したご様子

で、それ以来、一日一杯のカフェオレを飲むのがフェオの習慣になってしまっ

た。

そもそもフェオという名前は父がつけた。

カフェオレ好きのオスの犬……。カフェオレからカレを取ったら、フェオ。

だから名前はフェオにしたという、何とも簡単すぎる理由なのである。

今日は父の仕事が早く終わるらしいから、たまには一緒に夕食作ってもらおう

かしら、と考えつつ、道ばたをフェオと共に歩いていた。

するとイタリア料理店の駐車場に見覚えのある青いスポーツーカーが停まって

いた。ナンバーを見ると、さらに見覚えのあるナンバーだった。

私はもしやと思いつつ駐車場のお店のウインドウに視線を移した。案の定、

渡部が誰かとイタリア料理を楽しそうに食していた。

「誰と一緒なのかしら……? あっ!……」


私は思わず感嘆の声を漏らして慌てて口を塞ぎ、漫画でよくやる電柱の柱に身

を潜めて二人の様子を覗いた。

楽しそうに話してる……いったい何を……。

私は二人の関係がそれとは信じたくはなかった。

でも役もそれで奪われたかしら……やるせない気持ちが急速に込み上げた。