昼下がりの午後、窓から見えるマンションのベランダには布団がこれでもかと

言うほどの数でうたた寝をしていた。

私は彼のベッドからするりと顔だけ覗かせている。

「私たち、こんなことしてていいのかしら……」
「昼間っから?」


と渡部が隣で言った。私はぐしゃぐしゃになった髪のまま、ため息まじりにぼ

そっと呟く。

「夜でも同じことだと思うけど」


ベッドから起きあがり、放りっぱなしのパンツを拾って履くと洗面台へ向かっ

た。

クシで髪を梳かしながら、もう何回、いや何十回目のそれを終えた後の髪梳か

し姿だろう……鏡を見ながら私は自責の念に駆られていた。

昼間っから。いや、昼間しか出来ない。

父が家にいるから夜には帰らなければならないから。

でも、女にも性欲は当然ある。私にもある。女の羞恥心も30を越えると漢字で

いう恥の中の心が自然と無くなって、耳だけのものとなる。

彼からの言葉が聞きたいのだ。

なぜ私を抱くのか。

なぜ避妊をするのか。

なぜ私と結婚しないのか。

その答えが聞きたくて自然と耳だけ大きくなってしまう生き物なのだ。

私は化粧ポーチからファンデを取り出し、薄く塗り出す。

冬とは言え運動した後だから……。

「聞かないのか?」


渡部はゴロワーズのタバコを吸いながら、鏡に反射して映る私に問いかけた。

「なんで真希じゃなくて、石川に主役をしたのか」
「別に聞きたくもないわ。だってお芝居は主役だけで成り立ってるものじゃないんだしね。私も丁度、主役をサポートする形の脇役に挑戦したかったの」

おもいっきり嘘をついた。

それを見ていた渡部は起きあがると、私の傍に来て肩に手を掛け私の顔をまじ

まじと見た。

「ウソつけ」


鏡で反射して移る私を見ていたから、心も反射し嘘が簡単にバレてしまったの

かも知れない。

「……ウソじゃないよ。だって本当にそう思うもの。私はドラマで主役張っても視聴率は5%しか取れない女。彼女は期待の新星」
「……そりゃそうだけど、でも真希とはタイプが違う」
「タイプは違えど役者としては同じよ。私なんかこんな使い古されたファンデみたいにゴミ箱へポイよ」


と、無くなる寸前だったファンデをポイっとしてやって笑ってみせた。