正面玄関からオーディションが行われるスタジオ・第6ステージへ向かった。

「おはようございますっ!」


ごく一部の関係者と、私と座を争うライバルの女優さん以外誰もいなく、

スタジオの中では狭い部類に入る第6ステージに私の声が響き渡った。


監督やスタッフたちは挨拶してくれるがライバルたちは軽く会釈するだけで

目も合わせない。

皆必死。

主役の男の子の姉役としての選考オーディション、ということはそれなりに

年齢を重ねた女優さんたちばかり。

映画に出るかどうかで自分のランクが上に行くかどうかの瀬戸際に立たされて

いる人、中には事務所をクビになるかも知れない

本当に瀬戸際に立たされている人もいるよね。

私は三十路という瀬戸際になったばかりの人。


メイクさんはもちろん居らず、自分でササッと薄くお化粧をし直していざ!

オーディションが始まった。

私を含め都合十人集まった女優たちは皆、必死にアピールをしていた。

「じゃぁ、最後、竹内さんお願いします」


助監督さんの指示通り、私は監督や脚本家が座る席の前で演技をして見せた。

セリフはもちろん頭の中にバッチリ入ってる。

監督さんの合図と共に私は女優に変貌して見せた。


□姉の部屋

  姉、椅子から立ち上がり、ドアの傍にいる弟に振り向いて、

姉「雄一、あなたはお父さんやお母さんのこと、心配じゃないの?

  ……な、何よ。私だって心配よ、だからこうしてウチに戻ってき

  たんじゃない! バカ!」

姉、部屋を出ていく。


 カット! という監督の声。違うシーンの演技に移る。

 
□居間

  姉、横たわる父の亡骸を正座して見ている。

姉「……お父さん……ごめんね……我が侭な娘で……」

  頬にゆっくりと涙が伝う。

姉「(嗚咽で)ごめんなさい……ごめんなさい……」



カット! という監督の声が響き渡る。

私はパントマイムでその演技をして見せた。

涙目になったままの私は監督の顔色を伺う。微妙な感じだ。

立ち上がると一礼し、


「ありがとうございました。よろしくお願いいたします」

と言って、監督たちが座る席の前から退いた。