椎名さんに手渡されたメモを頼りに私はその派遣先に向かった。

場所は市内から少し離れた土手沿いにある高等技術専門学校だった。

私はその校門に掲げられた校名の看板を見ながら、

「高等技術……専門学校?」


ピンと来なかった。専門学校なら高校を卒業してからだし、でも高等と名に付

いている……後になって父から聞かされたのだが、馴染み深い言葉で言うなら

ば職業訓練校である。その中の自動車工学科の非常勤講師としてお手伝いして

いるらしい。

真新しい校舎の中に入り廊下を歩く。懐かしい……いつの間にか学生に戻った

気分がした。あの時は、俯きながら歩いてたっけ、廊下。男の子たちと視線が

合うのが怖い……そんな臆病な自分がそこにいたっけ。

職員室のプレートを見つけ、中に入る。すると、応接用のソファの所で父が職

員の方たちと雑談をしていた。

「お父さん」


私は小声で合図を送ると、父が『?』とした顔でやってくる。

「お父さん、お弁当忘れたからわざわざ持ってきてあげたのよ」
「なんだ、そんなことで。忘れたって言うけど作ってなかったから」
「作ってたもん」


 私は頬を膨らませ、父の胸に持ってきたお弁当をむんずと預けた。

「でも、もう他の先生たちと一緒に出前頼んだし……良かったらお前、食べなさい。自分のお昼はないんだろ?」
「……うん」


ということで、私は自分で作ったお弁当を食べることになってしまった。

父は「職員室で一緒に皆さんで昼食を取ろう」と言ってくれて私もそうした方

がいいのかな、と一瞬思ったが、よくよく考えてみると、父も正式な学校関係

者ではないのに、さらにその上を行く関係者でない私が一緒に食事をするのは

いかがなものか。それに、私がいると話したくても話せない雑談もあるだろう

しね……。

狐色した芝生が絨毯のように中庭に敷かれた中、私はその絨毯に座って学生の

時を思い出しながら自分で作ったお弁当を食べ始めていた。

あの頃の友達は今どうしてるんだろう、女の子たちでワーキャー言いながらお

弁当食べてたっけ。お母さんのお弁当美味しかったなぁ……特にちょっと甘い

卵焼きがポイントなのよね、友達にも美味しいって評判だったわ。

お母さんが亡くなってから、もう二年は経つ。そして来週、三回忌が行われ

る。父はその件でそれなりに忙しいはずだ。なのに、一切の文句も言わずシル

バーセンターからの依頼を引き受け、こうして仕事をしている……

以前の父なら、斜に構えた性格だったゆえ愚痴の一つや二つこぼしてもおかし

くはないのに。