耳を疑った。確かに舞台は主役独りで創る訳ではない。

そうか、きっと20歳そこそこの女性の設定なのだ、それなら仕様がない。

渡部は全配役を述べて言った。

私の配役は、コウヅキの友達、同い年の友人というのだから更に驚いた。

それだったら、主役を私に、美沙ちゃんを友人役にしても良さそうなの

に……。

と私は現実の【それ】から避けようと、言い訳を自分の中で繰り返していた。



それから舞台に上がる人たちだけで本読みがスタートした。

明らかに主役に比べたらセリフは少ない、出番も少ない。

それでも私は舞台で良い作品ができるのならば仕方はないと思った。

だが、正直言ってホンを読んだ感想は、金メッキというか、香りだけ美味しそ

うなコーヒーというか、的確な例えならばオリンピックに出場して金メダルを

取ったがそれは上っ面だけ金メッキなのよ、という見せかけだけの輝きでしか

なかった。渡部がいつも書いている作品とは少し違う……正直そう思った。

無論、一役者がそんなこと言うのはルール違反で常識外れだということは承知

得ている。だから私はその感情をセメントで固めて役に没頭することを心がけ

た。

本読みを進めていると、渡部は手帳を開いてメモを取り始めた。

役者それぞれのクセや演技について書き込んでいると彼は言う。

その時、渡部が私の方をじっと睨んでいた。

「おい竹内。例え初めてのホン読みでも、それなりに感情込めてくださいよ。テレビドラマで疲れていると思うけど、ぼーっとしてないで。頼みますよ」
「すみません……」

私は平謝りした。さっきのような事を考えながら、

【流し】て本読みしているのを見透かされてしまった……。

そしてまた本読みがスタートする。渡部は手帳に何か書き込んでいた。

私は雑念を振り払って本読みに没頭したのだった。反省反省……。

本読みが終わり、私は一端外へ出た。夕方になりかけの茜色に染まり始めた空

だった。日射しも落ちてきて一月の寒さが増していた。

稽古場のすぐ外には自動販売機があって、私お気に入りのカフェオレがあるの

だ。130円入れ、ボタンを押す時点で、昨夜のあまーいカフェオレの味が脳裏

によぎった。

……そうね、たまには普通のコーヒーでも飲もうかしら。

ちょっと疲れ気味だし。と訳分からない注釈を自分の中で意味なく入れて私は

甘いカフェオレでなく、あたたかい普通の缶コーヒーを買った。

稽古場に戻り休憩室で缶コーヒーをチビチビ飲んでいると、手帳を持った

渡部がやってきて私の隣に座った。