彼女は22才。

10代の頃からアイドルグループで活躍していたが、自分の夢に向かいたいと

アイドルグループから離脱、

ウチの劇団の門を叩いた。マスコミは一斉に事務所とのトラブルではないか

と騒ぎ立てたりもしたが、実際は本人の強い意志。

きっと将来を見据えてのことだろう、なかなか(したた)かな女性である。


「うん、確かに違うかもね。でもそれって、自分の中で勝手にそう思ってるだけなのかもしれないわ」

うんうんと頷く彼女はハッキリ言って可愛い、女の私が見ても当然可愛いく

魅力的。全力で役にぶつかっていく度胸の良さ、そして名前の通りの美のある

存在、さらにプラスαとして高いけどよく通る甘い声、男心をくすぐるのも

無理はない。


「美沙ちゃんは最近どう? ドラマにも出始めて」
「私なんかまだまだです。舞台だと声を大きくオーバーリアクションにしなくちゃいけないじゃないですか。ドラマだと自然に自然にってよく注意されます」

なんだ、普通のコメントかと思ってたら……、

「ドラマは目の演技が重要なんですね。最近は意識して目力を入れて演技してます」


この子、やっぱりデキル……。正直、そう思った。

すると劇団主宰の渡部が入ってきた。続けて制作部の人が入ってきて手に持っ

ていた人数分の台本を配る。表紙には『幸せの偽り』と書かれていた。

「いいですか、これが次回公演の台本です。これから配役を発表します、渡部さん」


制作の人に促され、渡部は近くにあるパイプ椅子に腰を掛けた。

その手にはお決まりの手帳を持っていた。

「今回の舞台はある意味、今まで築き上げたウチの劇団をまた一つ上へステップアップできる作品だと思っている。そして見ても分かる通り舞台へのスポンサーもついた」


 私はふとタイトルの斜め上の部分に目が行った。そこには大手化粧品会社の商品ロゴ

『コスメ・ビューティーPRESENTS』

と入っていた。

「今までは百人程度のキャパシティーの劇場が主だったが、今回はスポンサーからのバックアップもあってキャパ三百は入るハコでの公演となる。マスメディアへPRも多くやっていくつもりだ。みんな気合い入れてこの舞台を成功させよう」


劇団員たちから拍手が自然と沸き起こった。

私はより一層やる気に満ちなければならない。

なぜなら過去4作品連続私が主役を演じていたからだ。


「それでは役柄を発表する。主役の女性・コウヅキを演じるのは……石川美沙」