全校集会で生徒たちは体育館に集められた。卒業生が在校生に「どう生きるか」を語る会らしい。プロジェクターを使うとのことだったので雷閃は眼鏡を持って体育館に入った。
 雷閃は視力が少し悪い。授業中や、このような集会では眼鏡を持って行く。ただ常にかけているのは邪魔に感じるから普段は外している。
 並べられたパイプ椅子にクラスごとに座る。するとちょうど、雷閃の座る列の前を永海が通りかかった。ふとこちらを見た永海は息を飲んで口を押さえた。
「……えっ?」
 突然の驚愕に雷閃が面食らっていると永海は「眼鏡……」と言った。
「朝来くん、眼鏡だったの?」
「あ、はい。授業中とかだけ」
「なっ、なんで、なんで教えてくれなかったの……⁉」
「いや……教えることでもなくないですか」
 ぷるぷると震える永海の肩を、横から歩いてきた琴が抱いてなだめた。
「失礼しました、朝来くん。永海は眼鏡が好きなんです」
「はぁ……」
「でもどうか、勘違いなさらないでくださいね。永海は決して、あなたの眼鏡姿に悶えているわけではないのです。その点どうか、調子に乗ることのありませんようお願いいたしますわね」
「はぁ……?」
 気の抜けた返事をする雷閃の隣で、壮介があからさまに驚いた顔で三人を見比べていた。永海は顔を両手で隠したまま、琴に自分の椅子へと誘導されて行った。眼鏡フェチか。雷閃にはよくわからない。
「なぁ、あのひとたちって部活の先輩? 雷閃ってハーレム部活を楽しんでたのかよ」
 壮介がからかうように言った。今日の壮介は、光に当たると二重のまぶたが光る。そういうアイライナーらしい。
「ハーレムって言ってもあのふたりしかいないけどな。三年生は来ないし」
「でもすっごいかわいい子とすっごい美人な先輩だったじゃん。やばくない? ハプニング起きちゃうじゃん」
「ハプニングはぜんぶあの子がひとりで身に受けてる。俺にはひとつの被害もわけてくれねぇの」
 なんだか拗ねたような口調になってしまって、自分を恥じた。自分だけ永海と琴の秘密を知らないからって疎外感に拗ねる必要はない。あのひとたちは卒業するまでの少しのあいだ、時間を共有するだけの他人だ。つまり、雷閃の人生には関係のないひとたちだ。
「別にどうでもいいんだけどさ」
 取り繕うように雷閃は言った。壮介は追及しなかった。教師の「静かにしろ」という声が響くまでふたりで携帯ゲームの話をしていた。