***
「──はっ」
目覚めると、そこは見慣れた僕の部屋の天井が目に入った。白を基調とした薬品の香りがする病室でもないし、見知らぬ誰かの部屋ってわけでもない。
「……なんか、長い夢でも見ていた気分だけど」
未だぼやける視界、目をごしごしとこすって上半身を起こし、カーテンを開けて日光を部屋のなかに取り入れ、窓を開けて空気の入れ替えをしようとすると、
「おわっ」
ベッドの真横に座り込んで、頭だけ布団に預けた体勢で眠っている幼馴染の姿があって、僕は思わず悲鳴に近い声を漏らした。
そして、僕の悲鳴で眠りから覚めたのか、
「んん……凌佑?」
のろのろとした動きで顔を上げ、梓は寝起きの欠伸を小さくしては、手元で口元を隠そうとした。
「……あ、あれ……?」
けど、なぜか僕は梓のその様子を見て、ポロリと一滴、目から涙を流した。
何か、大事なことを、忘れているような……。
「……な、んで僕……」
僕が泣いているのを見た梓は、慈しみを携えた表情で近寄っては、
「あっ、梓っ……?」
僕の肩を、そっと抱きよせた。
「……大丈夫。もう、全部、全部終わったから……だから、もう、いいんだよ……」
「梓? き、急にどうしたの? いっ、いや、僕も僕なんだけど……」
「……私の知らない、覚えていないところで、凌佑、すっごく頑張ってくれたから……。凌佑も、知らなくていいんだよ。知らなくても、きっと、伝わっているから」
いつの間にか、僕を抱いている梓のほうすら、なんか声が潤んできている。
「……やっと、やっと言えるよ」
梓は、身体を離したかと思えば、顔と顔を見合わせては、ゆっくりと、柔らかい口調で、こう囁いた。
「……凌佑。わ、私、ずっと、ずっと、ずっと前から、君のことが──」
窓の外から、穏やかな風が僕の頬を撫でる。風は、窓際のカーテンも緩やかにはためかせ、目前にいる梓の前髪も揺らす。そして、外に咲き誇っている一枚の桜の花弁も、一緒に部屋のなかに運んできたみたいで、
ピンク色の花弁が、目の前を通過した直後。
桜のせいか、それとも梓自身の気持ちか、穏やかな桃色に頬を染め上げた幼馴染は、
「──大好きです」
僕にとって、最初となる告白を、してきたんだ。
「だから、その……え、えっと……」
核心となる部分を言い終わると、途端にもじもじとしてしまう梓。そんな彼女を愛おしく思った僕は、さっきのお返しと言わんばかりに、
「えっ、はわっ、り、凌佑っ?」
彼女の小刻みに震えている両肩に手を置いて、
「……僕も、同じ気持ちだよ。梓のこと……好きです」
何ひとつ、嘘の混じっていない本音を、口にした。
「──ようやく、ようやく、叶ったんだ、ね。凌佑」
その言葉の真意を、僕は測ることができなかった。けど、きっと、
今僕と梓が掴んでいる現在が、どうしても欲しかったものだ、っていうことだけは、わかった。
「──はっ」
目覚めると、そこは見慣れた僕の部屋の天井が目に入った。白を基調とした薬品の香りがする病室でもないし、見知らぬ誰かの部屋ってわけでもない。
「……なんか、長い夢でも見ていた気分だけど」
未だぼやける視界、目をごしごしとこすって上半身を起こし、カーテンを開けて日光を部屋のなかに取り入れ、窓を開けて空気の入れ替えをしようとすると、
「おわっ」
ベッドの真横に座り込んで、頭だけ布団に預けた体勢で眠っている幼馴染の姿があって、僕は思わず悲鳴に近い声を漏らした。
そして、僕の悲鳴で眠りから覚めたのか、
「んん……凌佑?」
のろのろとした動きで顔を上げ、梓は寝起きの欠伸を小さくしては、手元で口元を隠そうとした。
「……あ、あれ……?」
けど、なぜか僕は梓のその様子を見て、ポロリと一滴、目から涙を流した。
何か、大事なことを、忘れているような……。
「……な、んで僕……」
僕が泣いているのを見た梓は、慈しみを携えた表情で近寄っては、
「あっ、梓っ……?」
僕の肩を、そっと抱きよせた。
「……大丈夫。もう、全部、全部終わったから……だから、もう、いいんだよ……」
「梓? き、急にどうしたの? いっ、いや、僕も僕なんだけど……」
「……私の知らない、覚えていないところで、凌佑、すっごく頑張ってくれたから……。凌佑も、知らなくていいんだよ。知らなくても、きっと、伝わっているから」
いつの間にか、僕を抱いている梓のほうすら、なんか声が潤んできている。
「……やっと、やっと言えるよ」
梓は、身体を離したかと思えば、顔と顔を見合わせては、ゆっくりと、柔らかい口調で、こう囁いた。
「……凌佑。わ、私、ずっと、ずっと、ずっと前から、君のことが──」
窓の外から、穏やかな風が僕の頬を撫でる。風は、窓際のカーテンも緩やかにはためかせ、目前にいる梓の前髪も揺らす。そして、外に咲き誇っている一枚の桜の花弁も、一緒に部屋のなかに運んできたみたいで、
ピンク色の花弁が、目の前を通過した直後。
桜のせいか、それとも梓自身の気持ちか、穏やかな桃色に頬を染め上げた幼馴染は、
「──大好きです」
僕にとって、最初となる告白を、してきたんだ。
「だから、その……え、えっと……」
核心となる部分を言い終わると、途端にもじもじとしてしまう梓。そんな彼女を愛おしく思った僕は、さっきのお返しと言わんばかりに、
「えっ、はわっ、り、凌佑っ?」
彼女の小刻みに震えている両肩に手を置いて、
「……僕も、同じ気持ちだよ。梓のこと……好きです」
何ひとつ、嘘の混じっていない本音を、口にした。
「──ようやく、ようやく、叶ったんだ、ね。凌佑」
その言葉の真意を、僕は測ることができなかった。けど、きっと、
今僕と梓が掴んでいる現在が、どうしても欲しかったものだ、っていうことだけは、わかった。