「坂本はどこの檀家でしたっけ」

「……。少し寄り道をしましょう」

晋太郎さんは通りを曲がった。

確か妙善寺はそっちではないはずなんだけど……。

そんなことを思いながらも、後をついてゆく。

大通りを抜け、町の外へ出た。

「この河原で、幼い頃はよく遊んでいたのです」

土手から降りる。

ごろごろと丸石の転がる河原は、下駄を履いていても歩きにくい。

「先日あなたがご覧になっていた石や枝は、大体ここで見つけたものです」

晋太郎さんはうれしそうに川を指さした。

「このくらいの暑い時期には、よくここで泳いだものです。ほら、今も子供が沢山泳いでいます。よい思い出です」

照りつける日差しで、じっとりと汗をかいている。

歩き出したこの人は、子供の頃の思い出話しを続けた。

「私は、独楽もたこあげも得意でした。竹馬なんかも上手かったですよ。今でもやれば出来るんじゃないかな。あぁ、水切りも得意でした」

そこにしゃがみ込むと、あれこれと石を探し始める。

「水切りって、ご存じですか? 平らな丸い石を選んで、真横にぴゅーっと投げるのです。勢いで、川面を跳ねさせるのです」

ようやく見つかったらしい気にいた石を見つけると、持っていた手桶をそこに置いた。

「志乃さん、よく見ていてくださいね」

投げられたその石は、一度も跳ねることなく水面に沈む。

「あれ? いや、少々お待ちください」

それからこの人は、何度も時間をかけて丁寧に石を見つけ出しては投げて見せたが、上手く跳ねるのは一度もなかった。

どんどん日が傾いていくのを、私はじっと見つめている。

「あ、あの……」

「昔は上手く出来たのです!」

またしゃがみ込んだ。

「晋太郎さん……」

「なんですか!」

「……早く墓参りを済ませて帰らないと、遅くなってはお義母さまが心配なさいます」

「昔よりも、よい石がなくなってしまったようです。いい石ほど選ばれて投げられるので、もうここには残っていないのかもしれません」

桶の桔梗もすっかりくたびれてしまった。

まだ石探しをやめないこの人の横で、川の水を柄杓ですくうと、桶に入れてやる。

「そうだ。志乃さんもやってみますか?」

「いえ、結構です……」

「ぜひやってごらんなさい。どれだけ難しいか、やってみればあなたにも分かります」

足場の悪い石の上で、私の体がぐらりと傾いた。

「大丈夫ですか」

晋太郎さんの手が腕をつかむ。

「足元には気をつけて……」

「……。先日崩した体調が、まだ本調子ではないようです。この日照りは堪えます」

ようやく石遊びが終わった。

「そうですか。大丈夫なのですか? 今日はお参りをやめて、家にもどりますか」

「いえ、それは平気です」

あれこれ押し問答したあとで、ようやく動き出す。

「では、妙善寺へ参りましょう」

桔梗の花も息を吹き返した。

町の通りへは戻らず、川沿いの土手をゆく。